国民投票のCM自主規制、政党間で

 令和2年5月28日の衆院憲法審査会で、公明党の北側一雄副代表(党憲法調査会長)は、憲法改正手続きを定めた国民投票法をめぐり意見表明を行い、国民投票の実施に当たってのCM規制に関して、広告主となる政党間で自主規制ルールを設けることを提案しました。発言(要旨)は次の通り。

1、国民投票法改正法案7項目について
 公明党の北側一雄でございます。国民投票法をめぐる諸課題、特にCM規制について私の意見を述べます。
 現在、当審査会に継続中の国民投票法改正法案7項目は、2年前の通常国会に提出されまして、この国会で6国会目になります。内容は、共通投票所制度や洋上投票の対象拡大など、国民の投票の利便性向上、また投票機会を実質的に確保していく、こうしたことを目的とするものでございまして、すでに公職選挙法では施行されました。国政選挙、地方選挙でも幾度も実施をされているものでございます。各政党の間でも内容的には何ら異論はないものでございますので、速やかな成立を図るのが国会の当然の責任と考えます。

2、CM規制について

 

①現行制度

 現行のCM規制については、国民投票法105条で、次のように規定がございます。何人も、国民投票の期日前14日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、放送事業者の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることはできないと規定されています。主体は「何人も」、禁止対象は「国民投票運動のための広告放送」、いわゆるテレビ・ラジオでございます。禁止期間は「投票期日前14日間」でございます。

②制定時の論議

 なぜ、テレビ・ラジオの放送メディアだけにこのような規制が設けられているのでしょうか。
 国民投票法が審議、制定されました2006年、また2007年当時においては、多くの政党の間で次のような考え方があったと思われます。
 一つは、憲法改正に向けての国民投票運動は、賛成、反対を問わず、憲法制定権者である国民の意思表明そのものでございまして、できる限り自由な国民投票運動を保障すべきであり、その制約は必要最小限度であるべきだということです。
 もう一つは、テレビ等の放送メディアは、国民の感情に直接訴えて、扇情的な影響力を持ちやすく、また資金量の多寡がCMの量に影響し、投票の公平・公正を阻害するおそれがあるということです。
 表現の自由の保障と投票の公平・公正の確保とのバランスをとるという観点から、最終的に、言論の自由市場で淘汰する時間的余裕がない投票期日直前14日間について、国民投票運動のための広告放送を禁止するとしたものでございます。

 

③メディアをめぐる環境の変化

 国民投票法の制定当時から今日に至るまで、大きな状況の変化があると思います。
 言うまでもございませんが、時代がどう変化しようと、表現の自由と国民の知る権利の保障は民主主義の基盤であり、その制約は必要最小限のものでなければなりません。これは民主主義国家としての不変の理念であり、表現の自由に対する過度な規制は決して許されてはならない、そのように考えます。
 一方、メディア側については、デジタル化が急速に進展し、多様化、複雑化しています。国民投票法制定当時とは状況が一変し、国民の感情や世論に対する影響度も全く異なってきています。
 テレビ・ラジオの放送メディア、新聞、雑誌の紙メディア、これを広告業界では4マスと呼ばれています。国民投票法制定当時、インターネット広告はテレビ広告の4分の1程度の規模しかありませんでした。ところが、2019年、昨年の日本の広告費は、インターネット広告費が2兆円を超え、テレビメディア広告費を上回りました。
 きょう、お手元にございます、1枚目の「媒体別広告費推移」【資料1】をごらんいただくと明らかでございます。近い将来、インターネット広告費は、4マスの合計広告費をも超えると言われています。
【資料1】
 また、屋外広告や交通機関などでのデジタルサイネージ広告と呼ばれる新形態も、ラジオ広告の規模を大きく超え、急成長しています。お手元の資料の2枚目【資料2】をごらんいただきたいと思います。
私たちの身の回りで、多くのデジタルサイネージ広告が今実施をされています。ここでは、渋谷ハチ公前の交差点の大きなディスプレーなんかが例に挙がっておりますが、たくさんあるわけでございます。
【資料2】

 

④インターネット広告等の規制の是非

 国民投票法105条で、テレビ・ラジオの放送広告だけが規制された理由は、先に述べたとおり、放送メディアが扇情的な影響力を持っていること、また、資金量の多寡がCM量に影響するということでした。
 インターネット広告は、今や、放送広告の量を凌駕し、扇情的な影響力という意味では、はるかに強い影響力を持っているとも言えます。投票の公平公正を確保するためというなら、放送だけでなく、インターネット広告についても禁止しなければならない理屈になります。
 しかしながら、インターネット広告を規制することは容易なことではありません。例えば、あまたのアウトサイダー事業者や海外にも事業者がいるわけでございまして、こうした事業者を規制するのは、現実的にはとても困難と思われます。
 テレビ・ラジオの放送広告だけを法規制している現行の国民投票法105条は、いわばアナログ時代の広告規制にも見えます。

 

⑤政党側の自主規制と事業者側の自主的な取り組み

 デジタル技術の進展に伴って、メディアは急速に多様化し、複雑化し、これからも大きく変化していくものと思われます。
 これに対応するためには、広告主である政党側で自主規制のルールを適切に決める方が、より柔軟に、実効的な規制ができると思われます。
 例えば、日本たばこ協会は、テレビ・ラジオに加え、インターネット等についても製品広告を行わない、そのように決めています。また、日本貸金業界は、テレビCMの月間上限本数を決めています。
 一方、広告の事業者団体側でも自主的な取り組みが始められています。例えば、放送分野では、民放連が、昨年の3月20日に、「国民投票運動CMなどの取り扱いに関する考査ガイドライン」を策定いたしました。「政党、政治団体が出稿するCMは、原則、党首又は政治団体の代表のみが出席できる」、また「国民投票運動CMはCMであるその旨を、また、意見表明CMについても意見広告である旨を明示する」。こうした実質、自主規制とも評価できる具体的な内容を取り決めています。
 さらには、インターネット広告の事業者団体でも同様の自主的な取り組みがなされることが期待されます。もちろん、広告事業者の全てを掌握することはできないまでも、事業者団体で一定のルール、例えば、インターネット広告でも、それが国民投票運動CMであるだとか、意見広告であるだとか、また広告主は一体誰なのかということがきちんと明示をされる、そうしたルールが決められることが期待されるわけでございますが、そのようなルールが決められたにもかかわらず、それを遵守しないようなネット広告は、国民から見て、情報の信頼性を欠くと見られると思います。
 このように、広告主である政党側の自主規制と事業者側の自主的な取り組みをあわせて推進することによって、直接の法規制をしなくても、表現の自由の保障と投票の公平公正の確保のバランスが図られるものと考えます。
 政党の自主規制のルールの策定については、憲法審査会の会長、また幹事会のもとに、特別の検討委員会を設けて、政党間の協議を行うべきと提案をいたします。

 

⑥広報協議会の役割強化

 国民への情報提供を十分に確保するため、また政党間で一定の実効的な自主規制ルールを設けるためにも、国民投票運動CMを含め、広報活動全般について、賛否平等が法定されている国民投票広報協議会の役割が極めて重要です。
 国民投票広報協議会の機能を充実強化すべきと考えます。

3、憲法審査会での憲法論議
 以上、国民投票法をめぐる諸課題、特にCM規制について意見を述べました。 一方、憲法改正国民投票の手続もさることながら、そもそも、憲法の中身の議論が重要であることは言うまでもありません。一つの改正意見に賛成、反対を問わず、両議院の憲法審査会というオープンな場で自由闊達に憲法論議を着実に積み重ねることが期待されていることを申し述べ、私の意見表明といたします。

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