平和安全法制の具体的成果と公明党のさらなる役割。
平和安全法制の
具体的成果と
公明党のさらなる役割。
公明党 北側一雄副代表
施行から五年、年を経るごとに明らかになってきたその意義と効果を語る。
日米同盟を強化した平和安全法制
二〇一五年九月に平和安全法制(自衛隊法、国際平和協力法、重要影響事態安全確保法など一〇本の関連法改正と、新しく制定した国際平和支援法の合計一一本からなる一連の法律)が成立し、一六年三月の施行から五年が経過しました。
当時、私は「安全保障法制整備に関する与党協議会」座長代理として、平和安全法制の成立に向けて尽力してまいりました。
施行から五年が経過し、日本を取り巻く国際情勢と安全保障環境がさらに厳しさを増す今、あのとき徹底した議論のうえに法整備をしておいて、本当に良かったと感じています。
北朝鮮は依然としてミサイル発射実験を繰り返し、中国の南シナ海や東シナ海への海洋進出も周辺国との軋轢を生んでいます。そして、最近の米中対立もあり、中国と台湾との間の緊張が高まっている点も大いに憂慮されるところです。
台湾の東側約一一〇㌔にはわが国の与那国島が位置し、天気が良い日は島から台湾が肉眼で見えるほど近い。万が一にもあってはならないことですが、もし台湾海峡で軍事衝突が起きてしまえば、日本にとっても当然、他人事では済みません。
日本に限らず、一部の超大国を除いてどの国も一国だけで自国の防衛を担うのは困難な時代を迎えています。国際社会においては同盟関係と多国間の枠組みによって自国の安全を確保していかなければなりません。日本の場合、日米同盟と日米防衛協力体制が安全保障の根幹です。
平和安全法制が制定されるまで、米側は日本にある種の不満を抱いていたように思います。米軍は日米安全保障条約に基づいて、自衛隊と共同で日本の防衛を担っていますが、日米同盟における安全保障上の究極の問いは、〝日本の防衛のために活動している米軍に何らかの武力攻撃が行なわれた際、自衛隊が武力攻撃を排除できるのかどうか〟という点でした。もし、自衛隊が米軍への武力攻撃を排除できる状況にありながら、手出しできないといった事態が生じてしまえば、日米同盟は成り立たなくなってしまいます。
もちろん、このような事態は絶対に起こしてはなりません。しかし、極限の事態における対応を決めておかなければ、そこに至るまでに生じる同盟上の様々な課題を解決できません。それは平時における日米の共同訓練にも支障をきたします。
そうした状況を踏まえたうえで、日本としてどのようにこの問題を解決するべきか。重要なことは日本国憲法との関係です。憲法には、どこまで自衛の措置(武力行使)を取れるのかが明確に書かれていません。これまでは、内閣法制局の憲法解釈や国会での議論を積み重ねて、自衛権に関する政府解釈を作り上げてきました。
具体的には、「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」を定めた憲法九条と、前文の平和的生存権、一三条の幸福追求権を合わせて読み、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態」では、自衛の措置が認められるというものです。しかし、日本防衛のため活動する米軍に武力攻撃がなされたとき、自衛隊が武力攻撃を排除できるのかどうかは定かではありませんでした。
日本国憲法 前文(抜粋)
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する
第九条
「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(一項)
「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」(二項)
第一三条
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」
平和安全法制では、「武力行使の新三要件」を定め、第一の要件として〈我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること〉と示しました。
憲法九条の下で、自衛隊が米軍への武力攻撃を排除することが可能であることを、九条にかかる従来の政府解釈と論理的整合性をもちながらきちんと「新三要件」によって明文化することができました。ここが一番大きなポイントです。
また、明文化されたことで、もっぱら他国防衛のための自衛の措置は認められないことがはっきりし、また新三要件に合致しなければ自衛の措置を発動することはできません。これ以上の解釈変更には憲法改正が必要なことから、日本が専守防衛を堅持するうえでも、非常に厳格な〝歯止め〟をかけることができました。
平和安全法制で定められた「新3要件」
① わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合
② これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないとき
③ 必要最小限度の実力を行使
自公協議での徹底した議論
平和安全法制は、二〇一四年七月の閣議決定を受けて法案が作られましたが、その前段階には自民党と公明党との間で、数十回にも及ぶ与党間協議を行い、法案の中身を詰めに詰めた徹底的な議論を積み重ねました。
私たち公明党が一番こだわったのは、憲法九条の枠内、つまり専守防衛を堅持するなかで、昨今の国際情勢を踏まえた自衛の措置はどこまでできるのか――この点を限界まで突き詰めた論戦をしていきました。公明党が与党にいなければ、そこまで詰めた議論はなされなかったでしょう。
二度と戦争を起こしてはならない。軍事大国にしてはならない。専守防衛をどこまでも堅持していかなければなりません。それは日本国憲法を貫く平和主義の一番の理念です。そこを死守しながらも、一方で現実の安全保障への対応をどうしていくべきかを考えていかなければなりません。政治の最大の目的は国民の命と暮らしを守ることだからです。その非常に難しい問題を自民党と公明党との徹底した議論によってきちんと法案成立という形で着地させることができました。
振り返って、平和安全法制の成立にあたっては、公明党が果たした役割は非常に大きかったと思います。従来の日本の安全保障に対する基本理念をきちんと堅持したうえで、そして安全保障環境の大きな変化にも対応して、日米関係を深化させていける制度を作ることができました。自民党の多くの議員からも、あのときの与党協議のおかげで、平和安全法制を締まった形でまとめることができたと評価する声が寄せられています。
平和安全法制が作られたことで、究極の場面では自衛隊もちゃんと米軍の保護ができることをはっきりさせました。それを基に、日米に信頼関係が生まれます。実際、平和安全法制が作られて以降、日米間の共同訓練が頻繁に行われ、情報共有も格段に向上しています。
日米が極限の事態までをも想定したシミュレーションを共に描いて連携を強化していくことはとても重要です。また、米軍が人工衛星などによって得た北朝鮮や中国などの軍事情報などを速やかに日本に与えてくれるかどうかも、平時の連携や信頼関係が影響します。平和安全法制が施行されてからの五年間で日米の信頼関係は一段と強化されましたが、日米が綿密な連携をとること自体が抑止力の強化につながっていくのです。
また、平和安全法制は日米のみならず、多国間で日本の安全を確保していく体制作りにも寄与しています。その一例として、平和安全法制の一環である自衛隊法の改正によって、他国軍にも「武器等防護」が適用できるようになったことが挙げられます。
「武器等防護」とは、自衛隊の武器(車両や船、飛行機など)が外部から侵害されようとするときに、人や武器を守る措置のことです。これは自衛権の行使でも武力攻撃でもありません。これを排除し、自分たちの命や設備を守るのは当然のことだからです。
日本の安全保障は日米同盟を基本としながらも、オーストラリアやインド、欧州の国々とも連携を密にしています。多国間で実施される共同訓練の際など、武器等防護によって、お互いの武器等を警護できるようになったことは、信頼感を大きく高めることになります。
平和安全法制をめぐっては、野党やマスコミなどから「戦争法」との批判を浴びました。もちろん、安全保障は国家の根幹ですから、当然、大いに議論があってしかるべき問題ですし、私ども与党も真正面から批判に向き合い、「戦争法」ではなく「戦争防止法」だと訴えてまいりました。
しかしながら、先ほど政治の一番の使命は国民の命と暮らしを守ることと申し上げましたが、それに照らせば野党の姿勢は日本を取り巻く安全保障環境、国際情勢の大きな変化に対する認識、危機感が欠如していたと言わざるをえません。厳しく言えば、現実の政治からの逃避であり、あまりにも観念的で空虚な議論であったことは非常に残念です。
米国のトランプ前大統領は、大統領就任前から「米軍が攻撃されても自衛隊は動かない。日本は日米同盟にタダ乗り(フリーライダー)している」とし、在日米軍の撤退をちらつかせながら日本に対しては駐留経費の増額を訴えていました。
しかし、安保タダ乗りという批判は、トランプ前大統領だけが言っていたわけではなく、昔から同様の指摘はありました。つまり、これまでも水面下でくすぶっていた日本への不満を、平和安全法制が成立したことで解消することができたのです。
それによって、当時の安倍晋三首相もトランプ前大統領に対してきちんと説明することができました。率直に言って、平和安全法制がなければ、日米関係は困難な状況になっていたのではないかと思います。
対話による外交的解決を
この五年の間に起きた大きな変化の一つは、米国にバイデン新大統領が誕生したことでしょう。内向きな米国一国主義を掲げていたトランプ前大統領に対し、バイデン大統領は「国際社会の平和と安全を米国がリードしていくべきだ」というこれまで米国がとっていた立場に回帰しつつあるように思います。
六月に開催されたG7サミットでは中国に対する懸念が共同声明に盛り込まれるなど、米中対立を危惧する声も聞かれますが、バイデン大統領は中国を敵視するだけではなく、環境問題など分野によっては中国としっかり連携を取らなければならないという立場を取っています。
実際、世界最大の二酸化炭素排出国は中国ですから、アメリカと中国が協力しなければ地球温暖化防止対策はとても前に進みません。新型コロナウイルスの対策も、米中を含め世界共通の課題です。敵対関係ばかりが強調されがちですが、一方で協調もしていかなければならない。米中関係は決して一面的ではありません。
一昔前とは違い、中国はあらゆる意味で大国へと成長しました。しかし、自分たちだけの力によって経済発展してきたわけではなく、アメリカや日本を含め、世界の様々な国々との関係があって初めて、中国はあれだけの経済大国になりました。そのことは中国も十二分にわかっているはずですから、国際世論から非難されることは中国も決して望んでいるわけではないでしょう。
中国は一四億人もの人口を抱えている多民族国家ですから、国内事情によって外国に強気の姿勢を示すということもあるでしょう。日本もそうした事情をよく見極めていくことが重要です。
菅首相とバイデン大統領の日米首脳会談で〈日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す〉という日米共同声明が発表されました(四月十六日)。日米共通の認識として「平和と安定」「平和的解決」という文言が入っているわけですから、そのためにはどうしていけばいいのかを考えていかなければなりません。人権問題や地域の安定を阻害する問題については、日本もはっきりと懸念を表明しなければなりません。一方で、対話のチャンネルだけは決して閉ざさない。対話によって、外交的解決を目指す姿勢は今日も変わりません。
この点で、日本は重要な役割を果たすことができるはずです。もちろん日米同盟が基本ではありますが、日本外交の二国間関係にとって、日中関係は最も重要な関係です。日本と中国は有史以来の非常に長い関係を築いてきました。現在でも、文化、経済をはじめ日中両国は密接につながっています。
将来を見据えた丁寧な合意形成
問題は、国同士は戦争をしたくないと思っていたとしても、予期せぬ偶発的な軍事的衝突が起きることです。第一次世界大戦は、たった一発の銃声によって予期せぬ形で勃発しました。そうした過去の歴史に学び、不測の事態をいかに未然に食い止めるかが重要です。
偶発的衝突を起こさないためにも、二〇一四年に日中間で「海空連絡メカニズム」という連絡体制を作ろうという協議が始まりました(一八年六月に運用開始)。尖閣諸島周辺海域での緊張の高まりを緩和するため、日本が中国に働きかけて設けられました。自衛隊と中国軍による偶発的衝突を防ぐために、海域と空域で両者が連絡を取り合います。
今年三月二十九日にも自衛隊と中国国防部のトップが集まって会議が開かれ、「日中の防衛当局間でホットラインを作りましょう」という提言がなされました。日本ではそこまで大きく報道されていないためあまり知られていないのですが、何か気になることがあれば、いつでも直接連絡を取れるチャンネルがこれから作られます。
無用な偶発的事故など起こしたくないという思いは、中国も日本も共通です。様々な方法によって、信頼関係を醸成していくべきでしょう。
デジタル社会の到来によって、世の中には情報が溢れています。えてして極論にふれがちなネット世論が存在感を高めている今日、政治はいかに冷静な議論を進めていくか。難しい時代に入ったことは間違いありません。一方の意見に流されず、異なる意見に幅広く耳を傾けながら中道の政治を貫く。国際情勢が緊張を高める今こそ、平和主義、人間主義の中道政党である公明党の出番です。
日本を取り巻く国際情勢や安全保障環境がますます厳しさを増していることは、現在では多くの国民の皆さんが感じています。そうした意味からも、平和安全法制の意義は、年を経るごとにますます明らかになっていくでしょう。
将来を見据え、意見が異なる相手と対話を重ねながら丁寧に合意を形成する。現政権のなかで公明党がもつ役割は非常に大きいと思います。長期的視野に立ちながら、これからも国民の命と暮らしを守る政治に邁進してまいります。
北側一雄(きたがわ・かずお)
公明党副代表、衆議院議員
一九五三年、大阪府生まれ。創価高校卒業。創価大学法学部を第一期生として卒業。八一年四月に弁護士登録。その後、税理士登録。九〇年、三十六歳で衆議院議員に初当選(当選九回。現在、大阪一六区)。国土交通大臣・観光立国担当大臣(〇四年九月〜〇六年九月)、党政務調査会長、党幹事長などを歴任。現在、公明党副代表・中央幹事会会長を務める。