緊急時の国会議員の任期延長には憲法改正が必要
緊急時の国会議員の任期
特例法制定では延長できず、憲法改正が必要
3月24日の衆院憲法審査会で北側一雄副代表が意見表明しました。その発言(要旨)は次の通り。
公明党の北側一雄です。初めに、緊急事態条項の創設をめぐる議論の前提として、二点指摘をしたいと思います。
第一に、緊急事態への対応は、それぞれの危機管理法制の詳細な整備が不可欠だということであります。
緊急事態といっても、その形態は様々です。東日本大震災のような大規模災害、また感染症の爆発的な蔓延、さらにはウクライナが今、直面している外部からの武力攻撃など、多様です。こうした事態に、国民の生命、身体、財産を守るため、取られるべき具体的な措置は一様ではなく、これをひとくくりにして論ずることはできません。
緊急事態の類型に応じて、それぞれにふさわしい危機管理法制を平時から整備しておくことが肝要です。災害であれば、災害対策基本法などの災害対処法制、感染症であれば、新型インフルエンザ等対策特措法などの感染症対応法制、また、外部からの武力攻撃等であれば、武力攻撃事態等対処法などの有事法制です。
第二に、緊急事態にこそ、国会の役割がより重要であり、国会の機能を維持していかねばならないということです。
憲法第四十一条にあるとおり、国会は、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関です。先週も申し上げましたが、ウクライナの国会は今も厳然と機能し、ウクライナ国民と国際社会にその活動を連日発信しております。
先般、私ども憲法審査会は、いわゆるオンライン国会についての意見を取りまとめ、衆議院議長に報告をいたしましたが、いかなる状況下であっても国会機能は維持するという意味で、大きな意義があったと考えます。
一方、緊急事態に際し、内閣に緊急政令の制定や緊急の財政措置を取ることを憲法上認めるべきとの意見があります。しかし、緊急事態だからといって、憲法に白紙委任的な緊急政令制度を設けることは、国の唯一の立法機関としての国会の責任を放棄することにつながります。
例えば、現行の災害対策基本法第百九条では、生活必需品の譲渡制限、価格統制、金銭債務の支払い延期等の具体的項目を明示して、内閣に緊急政令制定の権限を与えています。このように、法律事項として個別に政令委任ができる範囲を規定すべきと考えます。
次に、緊急事態における国会議員の任期の延長について、その課題と基本的な考え方について私の意見を述べます。
まず、憲法第五十四条二項、三項に定める参議院の緊急集会との関係をどう考えるかです。
緊急の必要があるときは参議院の緊急集会が開催できるから、国会議員の任期の延長は必要ないとの意見があります。また、衆議院の解散時のほか、任期満了後にも緊急集会が可能かどうか、両論があるようです。
しかし、私は、この点よりも、緊急集会を憲法上どう位置づけるかの方がより重要な論点だと考えます。
憲法第四十二条では、国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成するとあります。予算も法律も、両議院の議決で成立をいたします。
参議院の緊急集会は、この二院制の例外として、衆議院の解散後、衆議院が不在の間、緊急の措置を取る必要があるときに緊急集会を開催し、国会としての意思決定ができるということです。これは、解散から四十日以内の近い将来に総選挙が実施され、新しい衆議院が構成されることを前提としており、あくまで暫定的、一時的な緊急の措置と位置づけられます。
総選挙の適正な実施が長期間困難となることが認められるような緊急事態の場合に、専ら緊急集会での議決で国会の意思決定とするのは、二院制の理念からするといかがなものでしょうか。参議院の緊急集会があるからという理由で国会議員の任期の延長は必要ないとの見解には賛成できません。
ちなみに、東日本大震災のときは、震災特例法の適用で、選挙期日と地方議員や首長の任期について、五十七の被災自治体で延期、延長しました。選挙期日が最も遅かった自治体は、二〇一一年十一月二十日で、八か月以上の選挙の延期、任期延長がされたことになります。
また、例えば、大規模災害等が発生し、選挙の実施が困難な場合は、公職選挙法第五十七条の適用により、その被災地域に限って国政選挙の繰延べ投票を実施すればよく、国会議員の任期延長や選挙の延期は必要ないとの意見があります。
しかしながら、国政選挙の場合は、衆参とも比例区選挙があります。東日本大震災のように広範な地域で選挙の実施が困難となった場合は、被災地の繰延べされた投票の結果が判明するまで比例区の当選者が確定しないということになります。また、同様に、多くの選挙区選挙での投票が繰延べされて、被災地選出の国会議員が長期間存在しないということにもなります。
そもそも、広範な地域で繰延べ投票となると、これ以外の地域の選挙結果をあらかじめ知った上で投票することにもなり、公平公正な選挙の実施という観点からも大きな疑問があります。国政選挙については全国同時に実施するというのが原則と考えます。
国会議員については、憲法上、衆議院議員の任期は原則四年、参議院議員の任期は六年と明記されています。そのため、特例法の制定によっては国会議員の任期の延長はできず、延長するためには憲法の改正が必要です。憲法を改正して、緊急事態の発生により国政選挙の適正な実施が長期間困難と認められる場合に国会議員の任期の延長ができるようにしようとしますと、誰がどのような要件と手続で決定するのか、明確に定めておかなければなりません。議会制民主主義の根幹に関わることですから、国会が決定するとしても、極めて厳格かつ公正な要件が求められます。
選挙の適正な実施が長期間困難とはどの程度の期間を指すのか、また、任期延長の期間をどの程度にするのか、再延長を認めるのか、さらには、衆議院が解散された後に緊急事態が発生した場合に、衆議院議員の地位回復を認めるのかなど、難しい課題もあります。また、任期延長がなされた場合には、その間は国会を閉会することはできず、さらには、衆議院の解散権行使は禁止されると考えられます。
以上、緊急事態における国会議員の任期延長というテーマについて、その是非、幾つかの論点を述べました。今後、海外の憲法例の調査や有識者の意見聴取なども実施し、論議を深めてまいりたいと考えます。
以上、本日の意見表明とさせていただきます。