国会議員の任期延長には憲法改正が必要
緊急事態で国政選挙が長期間困難と認められた場合、選挙の延期、国会議員の任期延長には憲法改正が必要
4月7日の衆院憲法審査会で北側一雄副代表が意見表明しました。その発言(要旨)は次の通り。
公明党の北側一雄です。
いかなる緊急事態が発生しても、国会は唯一の立法機関、全国民を代表する国権の最高機関としてその役割を果たしていかねばなりません。
衆議院憲法審査会は、この通常国会では、特に緊急事態において国会機能の維持をどう確保するのかという観点から議論を積み重ねてまいりました。
まず、憲法五十六条一項の「出席」の概念について論議を深め、例外的にオンラインによる出席も含まれるとの意見が大勢となり、その結果を三月八日、衆議院議長に報告できたことは大きな成果であったと考えます。
これまでの議論を踏まえながら、特に緊急事態における国会議員の任期の延長問題を中心に、改めて私の見解を述べさせていただきます。
憲法四十五条では「衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。」とあります。さらに、四十六条では「参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。」とされています。このように、国会議員の任期については憲法に明確に規定をされています。
任期満了前若しくは衆議院解散後に緊急事態が発生し、国政選挙の適正な実施が長期間困難と認められるときに、国会の機能を維持するため、国会議員の任期の延長ができるようにする必要があるのかどうか、議論のあるところでございます。
まず、参議院議員は半数改選で、衆議院議員が不在であっても、参議院の緊急集会があるから、国会議員の任期の延長は必要がないとの意見があります。
憲法五十四条二項では、「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。」とあります。一方、同条の一項では、「衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。」とあります。さらに、同条の三項では、「緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。」とあります。
国会は、言うまでもございませんが、二院制です。衆議院及び参議院の両議院で構成されるとなっております。法律、予算、条約、内閣総理大臣の指名、更には憲法改正の発議等も両議院の議決で行われます。
参議院の緊急集会による国会としての意思決定は、この二院制の例外として、憲法上あくまで暫定的、一時的な緊急措置と位置づけられます。
憲法上、衆議院解散から四十日以内に総選挙が実施され、選挙から三十日以内に国会を召集し、新しい衆議院、新しいハウスの構成がなされます。解散から新衆議院の構成がなされるまでの最大七十日の間を想定し、緊急の必要があるときは、内閣は参議院の緊急集会の開催を求められるとしたと思われます。
緊急事態の発生により総選挙の適正な実施が長期間明らかに困難と認められる場合に、二院制という統治原理からしますと、参議院の緊急集会があるから衆議院議員の任期の延長は必要がないとは言えないというふうに考えます。
また、緊急事態が発生し、選挙の実施が困難な場合は、公職選挙法五十七条の適用により、その地域に限って選挙の繰延べ投票をすればよく、国会議員の任期の延長は必要がないとの意見があります。
しかしながら、二〇一一年三月の東日本大震災のときは、公職選挙法の繰延べ投票の適用ではなくて、新たに震災特例法を制定しました。その結果、五十七もの被災自治体で選挙期日の延期と地方議員や首長の任期が延長されました。選挙期日が最も遅かった自治体は、その年、二〇一一年の十一月二十日で、予定された選挙期日から約七か月先に選挙が延期され、さらに、議員や長の任期もその選挙期日まで延長されました。
被災地域では、選挙の適正な実施が長期間困難と認められ、また、その間、被災自治体の長や議会の議員が不在というわけにはいかない、このように考えてこのような特例法を制定したのでございます。一九九五年一月の阪神・淡路大震災のときも同様の特例法を制定しています。
一方、国会議員の場合は、任期が憲法で明記されていますから、法律の制定で任期の延長をすることはできません。
さらに、国政選挙の場合は、衆参とも比例区選挙があります。東日本大震災のように、広範な地域で国政選挙の繰延べ投票を実施するとした場合には、被災地の繰延べされた投票の結果が判明するまで、比例区の当選者が長期間確定しないということになります。また、同様に、多くの被災地の選挙区選挙での投票が繰延べされて、被災地選出の国会議員が長期間存在しないということにもなります。
そもそも、広範な地域での繰延べ投票の実施は、公平公正な選挙の確保という観点からも疑問があります。国政選挙については、全国同時に実施するというのが原則だと考えます。
公職選挙法の繰延べ投票制度があるから国会議員の任期の延長は必要がないとは言えないというふうに考えます。
以上、緊急事態の発生により国政選挙の適正な実施が長期間明らかに困難と認められる場合に、選挙期日を延期し、かつ、国会議員の任期の延長をするためには、憲法の改正が必要と言わざるを得ません。
緊急事態にあっても国会の機能を維持するため、国会議員の任期を例外的に延長できるようにするとの改正趣旨でありましても、議員の任期は議会制民主主義の根幹に関わることですから、その要件と手続は厳格でなければなりません。
改正内容の基本的な考え方について
改正内容の基本的な考え方について、私の考えを述べたいと思います。
まず、事態認定の要件と手続です。
少なくとも二つの要件が必要と考えます。
第一に、巨大地震などの大規模な自然災害のほか、外部からの武力攻撃、大規模テロ、感染症の全国での爆発的な蔓延等の緊急事態が発生したこと。第二に、これにより我が国の広範な地域で国民の生命、身体、財産が侵害される重大な危機に直面し、そのため国政選挙の適正な実施が長期間明らかに困難と客観的に認められること。
ちなみに、国政選挙の適正な実施が困難と認められる長期間とは、どの程度の期間を指すのか。先に述べましたように、憲法が参議院の緊急集会開催要請を想定しているのは衆議院議員の任期終了から新議会構成までの最大七十日間であると考えますと、この期間が一つの基準となると思われます。
また、緊急事態の発生により選挙の実施が困難な事態認定は誰が行うのか。緊急事態に係る全体の情報を掌握できるのは、やはり行政権の属する内閣であり、内閣がこの事態認定をする、せざるを得ないと考えます。ただし、事態認定後直ちに、両議院の出席議員の三分の二以上の特別多数の賛成で国会が事後承認するという手続が必要だと考えます。
さらに、衆議院解散後、緊急事態が発生した場合をどう考えるか。衆議院の解散は、衆議院議員の任期を終了させること、そして衆議院解散から四十日以内に総選挙を実施すること、この二つの不可分な効果をもたらします。総選挙が実施できないと認められるときは、そもそも衆議院解散の意義が失われるのではないか、解散権を行使した内閣自らの緊急事態の事態認定により解散は効力を失い、衆議院議員の身分は回復すると考えられないか、難しい課題ですが、そのようにも思えます。
次に、緊急事態発生により選挙の実施が困難な事態と認定された効果です。
第一に、国政選挙の選挙期日が延期され、国会議員の任期が延長されます。その期間は、参議院の緊急集会開催可能な想定期間である、任期終了から七十日が基準となると思われます。また、内閣の判断により選挙期日の再延期、議員任期の再延長は可能と考えられますが、同様に、その都度、両議院の出席議員の三分の二以上の特別多数の賛成で国会が事後に承認するということになるのではないでしょうか。
第二に、事態認定後は、衆議院の解散は禁止されます。
一方、衆議院は内閣の不信任案提出をできないということにもなると思われます。
第三に、国会は自動召集となって、閉会ができないということになります。
第四に、憲法の改正は禁止をされます。
以上、改正内容の基本的な考え方について私見を述べました。憲法審査会では引き続き更に深く検討されることをお願いいたしまして、本日の意見表明といたします。