国民投票CM 制約、最小限で

衆院憲法審査会で北側一雄副代表

国民投票CMの制約は
必要最小限でなければならない
自主規制で公平性の確保も

4月28日の衆院憲法審査会で北側一雄副代表が意見表明しました。その要旨は次の通り。

 公明党の北側一雄です。国民投票法をめぐる諸課題、特にCM規制について私の意見を述べたいと思います。
 時代がどう変化しようと、表現の自由と国民の知る権利の保障は民主主義の基盤であり、その制約は必要最小限度のものでなければなりません。これは民主主義国家としての不変の理念であり、表現の自由に対する過度な法規制は許されないことをまず確認したいと思います。
 現行のCM規制については国民投票法百五条で、何人も、国民投票の期日前十四日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、放送事業者の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることはできないと規定されています。主体は何人も、禁止対象は国民投票運動のための広告放送、すなわちテレビ、ラジオでございます。禁止期間は投票期日前十四日間でございます。
 なぜ、テレビ、ラジオの放送メディアだけにこのような法規制が設けられたのか。憲法改正に向けての国民投票運動は、賛成、反対を問わず、憲法制定権者である国民の意思表明で、できる限り自由な国民投票運動を保障すべきであり、その制約は必要最小限でなければなりません。
 しかしながら、テレビ等の放送メディアは、国民の感情に直接訴えて、扇情的な影響力を持ちやすく、また資金量の多寡がCMの量に影響し、投票の公平公正を阻害するおそれがあると考えられたからです。
 表現の自由の保障と投票の公平公正の確保とのバランスを取るという観点から、最終的に、言論の自由市場で淘汰する時間的余裕がない投票期日直前十四日間、これは期日前投票の期間にも当たりますが、国民投票運動のための広告放送を禁止するとしたものでございます。
 ちなみに、国民投票運動のための広告放送について、法律で全面禁止するなど、更に放送、CM規制を強化すべきとの意見があります。国民投票期日は、国会による憲法改正の発議の日から六十日以後百八十日以内で決められますが、この全期間、何人も広告放送を全面的に禁止されるというのは、国民投票運動の自由、表現の自由に対する余りに過度な法規制と言わざるを得ません。
 法律上の規制というのは、要するに、国家権力による表現の自由に対する規制でございます。慎重でなければいけないと私は考えます。放送広告について、現行の国民投票法百五条を超える法規制には、私は慎重でなければならないと考えます。これ以上の規制をやろうとするならば、それは業界団体や放送事業者の自主規制、自主ルールにできる限り委ねられるべきと考えます。
 一方、メディアをめぐる環境は激変しています。デジタル化が急速に進展し、多様化、複雑化しています。国民投票法制定時とは状況が一変し、国民の感情や世論に対する影響度も全く異なってきています。
 国民投票法が審議、制定された二〇〇六年、二〇〇七年当時、インターネット広告はテレビ広告の四分の一程度の規模しかありませんでした。ところが、二〇一九年の日本の広告費は、インターネット広告費が二兆円を超え、テレビメディア広告費を上回りました。また、屋外広告や交通機関などでのデジタルサイネージ広告と呼ばれる新形態も、ラジオ広告の規模を大きく超え、急成長しています。
 国民投票法百五条でテレビ、ラジオの放送広告だけが規制された理由は、さきに述べたとおり、放送メディアが扇情的な影響力を持っていること、また、資金量の多寡がCM量に影響するということでございました。インターネット広告は、今や放送広告の量を凌駕し、扇情的な影響力という意味でははるかに強い影響力を持っているとも言えます。投票の公平公正を確保するためというなら、放送広告だけではなく、インターネット広告についても同様の法規制の必要があるのではないでしょうか。
 以前にも申し上げましたが、テレビ、ラジオの放送広告だけを法規制している現行の国民投票法百五条は、いわばアナログ時代の広告規制と言わざるを得ません。インターネットを利用した国民投票運動ももちろん表現の自由として保障されなければなりませんが、投票の公平公正を確保するため一定の広告規制をするというのであれば、放送と通信は質的に異なるとはいいましても、できる限りイコールフッティングでないといけないと思われます。
 デジタル技術の進展に伴いましてメディアは急速に多様化し、複雑化し、これからも大きく変化していくものと思われます。これに対応していくためには、広告主である政党側で自主規制のルールを適切に決める方が、より柔軟に実効的な規制ができると思われます。
 例えば、日本たばこ協会は、テレビ、ラジオに加え、インターネット等についても製品広告は行わない旨、決めています。また、日本貸金業協会は、テレビCMの月間上限本数を決めています。
 一方、広告の事業者団体側でも自主的な取組が始められております。例えば、放送分野では、民放連が二〇一九年三月二十日に国民投票運動CMなどの取り扱いに関する考査ガイドラインを策定しました。政党、政治団体が出稿するCMは、原則、党首又は政治団体の代表のみが出席できる、また、国民投票運動CMはその旨を、意見表明CMは意見広告である旨を明示する、さらに、CMには広告主名と連絡先を視聴者が確認できる形で明示するなど、実質自主規制とも評価できる具体的な内容を取り決めています。
 さらには、インターネット広告の事業者団体でも同様の自主的な取組がなされることが期待されます。もちろん、ネット広告事業者の全てを掌握することは不可能だと思いますが、事業者団体で一定のルールが決められたにもかかわらずそれを遵守しないネット広告は、国民から見て情報の信頼性を欠くと見られるのではないでしょうか。
 このように、広告主である政党側の自主規制と事業者側の自主的な取組を併せて推進することによって、直接の法規制をしなくても、表現の自由の保障と投票の公平公正の確保のバランスが図られるものと考えます。
 政党の自主規制ルールの策定については、憲法審査会の会長、幹事会の下で政党間の協議を行うべきと改めて提案したいと思います。
 国民への情報提供を十分に確保するため、また政党側で実効的な自主規制ルールを設けるためにも、広報活動全般について賛否平等が法定されている国民投票広報協議会の役割は極めて重要です。国民投票広報協議会の機能を充実強化すべきと考えます。
 デジタル社会の急速な進展は、企業の生産性を高め、また日常生活の利便性を向上させるなど、経済や社会の姿を大きく変革しています。社会のデジタル化は避けることはできないし、進めていかねばなりません。
 一方で、ビッグデータやAIなど、デジタル技術の著しい進歩がプライバシーの保護や健全な民主主義の発展などの憲法価値を損なっている側面も指摘されています。国民投票運動としてのインターネットによる広告規制の課題とも関わるところです。急速に進展するデジタル社会にあって、人権の保障や健全な民主主義の発展という憲法価値をどう守るのか、大きな課題と言わなければなりません。
 EUでは、デジタルサービス法やデジタル市場法など法規制を進めていますが、こうした海外の動向なども参考にしながら、憲法上の位置づけや規制の在り方について、憲法審査会で今後論議を進めるべきテーマと考えております。
 以上、私の意見表明といたします。

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