敵基地攻撃の着手、「個別具体的に判断」

11月25日、朝日新聞デジタル掲載 北側一雄副代表インタビュー

敵基地攻撃の着手、「個別具体的に判断していく」

 国の外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定に向けた自民、公明両党の協議で、最大の焦点となっているのが「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有だ。
 政府は敵基地攻撃について、相手がミサイルを発射する前であっても「着手した」と認定できれば「自衛の範囲内」という立場をとってきた。
 ただ、相手が着手していない段階で攻撃すれば、国際法違反に問われる「先制攻撃」になりかねない。このため、公明党は「着手」を厳格に判断するよう求めてきた経緯がある。
 敵が攻撃に「着手」したことをどう判断するのか。与党協議の公明党側トップを務める同党の北側一雄・副代表は11月17日、朝日新聞のインタビューに「個別具体的に判断するしかない」と答えた。どういうことなのか。

 安保関連3文書をめぐる与党協議「外交安全保障に関する協議会」の公明党側トップを務めていますが、協議の焦点は、敵のミサイル発射拠点などをたたく「敵基地攻撃能力(反撃能力)」です。能力は保有すべきだと考えますか。
 「安全保障環境は厳しさを増しています。北朝鮮、ロシア、そして中国、それぞれが軍事力を増強しています。特に北朝鮮は弾道ミサイルなどの発射をかつてないほど繰り返しています。そのやり方も多様で、変則軌道や一度に何発も撃つ『飽和攻撃』などミサイル発射技術が極めて高度化している。これは否めない事実です」
 「今まで日本はミサイルを迎撃する体制をとってきましたが、それだけで本当に日本の領土・領海に飛んでくるミサイルを全て破壊できるのか。これまでのミサイル防衛体制は限界が見えている」
 「そのなかで、反撃能力を持つべきではないのか、という議論が出てきています。我が国の抑止力を強化していくという意味で、反撃能力の保有は重要なテーマです。検討していくべきではないかと思います」
 「ただし、その場合も憲法9条があります。当然、国際法でも先制攻撃は禁止されています。いかにこれまでの『専守防衛』の考え方のなかでできるか。ここはしっかりと議論される必要があります」

 「反撃能力」を行使する場合、相手が攻撃に「着手」したことを認定する必要があります。この「着手」の概念を「厳格化すべきだ」と繰り返し強調しています。一方、政府・自民党内には厳格化すれば「手の内を明かすことになる」と慎重な意見もあります。
 「外部からの武力攻撃がある前に反撃すれば、これは先制攻撃でしょう。先制攻撃にならないことは大前提です。それを『着手』という概念で言っています。これは個別具体的に判断するしかない。今から類型的に言えるわけがありません。そのときの国際情勢や、相手方の攻撃の態様、それまでの経緯や、さらには相手国が攻撃の意図を明示しているかどうか。そうしたことを総合的に考慮して、個別具体的に着手を判断していくわけです」
 「自衛権を行使した場合には(国連憲章に基づき)国連安全保障理事会にすぐ報告しなければなりません。国際社会から見ても、『これは自衛権の行使だ』ときっちり説明できないといけない。そういう意味で、厳格でなければならないと言っているのです」
 「手続き的にも自衛権行使ですから、武力攻撃事態の認定が必要です。『対処基本方針』も決めなければなりません。このなかには当然、理由を書き込まなければならない。国会の承認はそれに基づいて得られるわけで、こうした手続きは今でも担保されているわけです」

 それらが、先制攻撃に当たらないという「歯止め」になると考えるのですか。
 「そう思います。武力行使をするわけですから、国際社会にも、国内的にも、国会に対しても説得力のある事実関係が説明されなければなりません。もし、先制攻撃だったら、国際社会から非難されるわけです。日本としてはきちんと説明できなければなりません」

自民党は攻撃対象を「指揮統制機能等」を含むとしています。許容できますか。
 「対象はミサイルの発射基地だけとは限りません。弾薬やミサイルを貯蔵しているところやレーダー機能も破壊することになるかもしれません。ただ、それらは、そのときの判断になります。大事なことは、我が国を守るための必要最小限の措置であるということです。どこを攻撃してもいいわけではありません」

政府は2015年、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる」事態を「存立危機事態」とし、集団的自衛権を一部行使できる安全保障関連法を成立させました。今年5月には、存立危機事態でも敵基地攻撃能力を行使できるとする答弁書を閣議決定していますが、どう考えますか。
 「存立危機事態の要件に該当するからと言って、必ず反撃能力を行使しなければならない、ということではありません。反撃能力を行使しても、自衛権の行使として国際法上の違法性が阻却されるということです。存立危機事態は、例えば、日本の防衛のために公海上で警戒・監視する米艦に対して北朝鮮から攻撃があった場合が当てはまりますが、現実問題、米国は黙っておらず、総力を挙げて反撃するでしょう。そのときに日本も反撃能力を行使する必要があるのかどうか。これも事態の認定に至る事実関係から慎重に判断されることになると思います」

岸田文雄首相は従来の防衛費に①研究開発②港湾などの公共インフラ③抑止力強化に向けた同志国などとの国際的協力④サイバー安全保障を加えた「総合的な防衛体制の強化に資する経費」という新たな枠組みを示しました。どう考えますか。
 「私は賛成です。安保環境が厳しさを増すなか、政府全体として各省庁が連携し、我が国の安全保障に資するような施策を実施していかねばなりません。24時間365日警戒・監視をする海上保安庁の機能を強化する費用は、まさしく安全保障に資する予算だと思います」
 「軍事のありようを大きく変える先端技術開発も大事です。有事や、それに近い状態での避難を視野に入れた空港・港湾整備も必要です。東南アジアをはじめとする周辺国の沿岸警備機能を高めていく能力構築に資する支援も我が国の安全保障に関わります」

それらを含む防衛力の強化に必要な財源はどう確保しますか。増税が必要な場合、その税目はどう考えますか。
 「防衛力はおそらくそれなりの期間、維持・強化していかなければならない。年間に兆円単位の規模の財源が必要になるかもしれない。そうなると、やはり安定財源を確保する必要があります」
 「防衛力の強化によって利益を受けるのは誰か。シーレーン(海上交通路)が守られ、国際社会が安定していなければ、国際展開している企業は活動できません。抑止力が強化され、平和と安定が確保されることは国民全体にとっても利益です」
 「そう考えると、それなりに幅広い税目でなければだめでしょう。一方、歳出削減をやらなければ国民の皆さんの理解を得られません。優先順位が低いものはどんどんなくしていく。スクラップ・アンド・ビルドが必要です。税外収入の活用も検討すべきです」

増税する場合は法人税や所得税が念頭にあるということですね。増税するタイミングについてはどう考えますか。
 「法人税、所得税も選択肢に入らないわけではないと思います。ただ、負担能力は勘案したうえで検討しなければなりません。どんなやり方があるかはこれからの議論だと思いますが、社会保障の財源である消費税のように薄く広くというわけにはいかないでしょう。高価な防衛装備品は調査・研究、設計と、順次進んでいく。実際に購入するのは少し先です。そういう意味で、来年、再来年から急に増えるという話にはならない。コロナ禍、円安、物価高が続く今の経済情勢も当然、勘案しなければなりません」
 「今後、全体の規模や時間軸が出てきたら、まず安定財源の内容は決めていかないといけない。そのうえで、増税する時期をどうするかは経済情勢をよく見て判断する。いずれにしても、来年、再来年というのはなかなか容易でない。その間、必要であれば国債を発行することになるでしょう」

条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」は維持すべきだと考えますか。
 「従来の装備移転三原則はきちんと維持すべきですが、『運用指針』は少し手直しした方がいいところがあると思います。現在は輸出できる装備品を救難、輸送、警戒、監視、掃海に限定していますが、これでは例えば、地雷除去のための装備が入らない。すごくニーズはあると思います」
 「さらに言えば、今回のウクライナ侵略のように明らかに国際法に違反する侵略があった場合に欧米の国々は武器も供与している。日本はウクライナに対し、『武器』にあたるとなにも供与できないのか。ここは議論する価値があると思います」
 「日本の防衛力を強化するだけでなく、周辺国も含めて地域全体の安定を図ることが大事です。同盟関係がある国々、また、同志国と言える国々に対し、一定の透明性ある手続きのもとで装備品を移転することは全くだめなのか。もちろん、しっかりとした歯止め、相当厳格な手続き、要件が必要だと思います。防衛装備移転三原則はしっかり堅持したうえで、例外的に装備移転が許容される場合がないのか、議論してもいいと思っています」
(小野太郎)

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