自衛の措置、限界は既に明確。今後とも堅持を

衆院憲法審査会で北側一雄副代表

憲法9条の解釈 堅持を
自衛の措置、限界は既に明確

 公明党の北側一雄です。今日は、私も、憲法と安全保障との関係について意見を述べます。
 平和安全法制は、二〇一五年五月に法案が国会に提出され、同年九月に成立し、翌二〇一六年三月に施行されました。
 平和安全法制には安全保障に関わる様々な関連の法整備が含まれていますが、その肝となるのが、憲法九条の下で許容される自衛の措置の限界を明確化したことです。いわゆる武力の行使の新三要件です。
 その基本的な考え方は、法案提出の前年である二〇一四年七月一日の閣議決定で示されています。
 私は、この七月一日閣議決定に至るまでの自公の与党協議、さらには、これに基づく関連法案の策定、法案成立に至るまで、与党の実務者として関わりました。
 憲法九条の下で許容される自衛の措置について、これまでの政府見解の根幹、基本的な論理は何か、改めて確認したいと思います。
 それは、内閣法制局が、一九七二年、昭和四十七年ですが、一九七二年十月十四日の参議院決算委員会に提出した「集団的自衛権と憲法との関係」で明確に示されています。その考え方は、一九五九年十二月のいわゆる砂川事件の最高裁判決とも軌を一にしています。
 七二年見解は、憲法前文の平和的生存権、十三条の幸福追求権の憲法規定を根拠に、憲法九条は、「わが国が自らの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであつて、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。」と述べ、さらに、「だからといつて、平和主義を」「基本原則とする憲法が、」「自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、それは、あくまでも外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認される」と述べています。
 以上の七二年見解を踏まえ、二〇一四年七月一日の閣議決定は、「この基本的な論理は、憲法第九条の下では今後とも維持されなければならない。」とした上で、「我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、」「我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」として、武力の行使の新三要件の内容を示し、これは「従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容される」としました。また、「憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容される」として、許されるのは自国防衛の措置であって、専ら他国防衛を目的とした武力行使は禁止されることを明らかにしています。
 例えば、日本海の公海上で、我が国防衛のため警戒監視活動をしている米艦船に対し外部から武力攻撃があった場合に、自衛隊はこれを排除するため武力の行使ができることになります。これによって、我が国の防衛の基軸である日米同盟の信頼性と抑止力が強化されたことは言うまでもありません。
 以上、この七月一日閣議決定とその後の平和安全法制に明示された新三要件は、憲法九条の下で許容される自衛の措置の限界を明確化し、解釈として既に確立されているもので、今後とも堅持されなければなりません。仮にこれを変更し、自衛の措置を拡大しようとするのであれば、憲法改正をしなければなりませんが、これは日本国憲法の平和主義の基本理念にもとるものであって、私どもは賛成することはできません。
 次に、先週の新藤議員の意見に対する若干のコメントを申し上げます。
 新藤議員は、これまでの九条の政府解釈は堅持した上で、九条の二を設け、国防規定とその担い手である自衛隊を明記すべしと主張されています。
 まず、本日も新藤議員からは、日本国憲法の平和主義をこれからも堅持されなければならないと。
 また、これまでの九条の政府解釈を維持するとされていることについては高く評価したいと思います。
 しかしながら、次の点についてはやや疑問があります。
 第一に、自民党のたたき台案では、九条の二の一項で、「前条の規定は、」「必要な自衛の措置をとることを妨げず、」とあります。「妨げず、」は例外規定ではなく、あくまで九条の二項の範囲内にあることを確認する規定と述べられています。
 しかしながら、例えば民法二百五十六条の共有物の分割請求の規定では、「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。」とあります。ここでの「妨げない。」は例外規定で、その他、「妨げず、」との文言を例外規定として使用する法律規定は数多くあります。
 「妨げず、」の表現は、九条二項の例外規定と読まれる余地を残すことになり、賛成できません。
 第二に、自衛隊という組織を憲法上明記することによって、憲法上の国家機関とされないのか、また、憲法七十二条で行政各部の一つとして位置づけられている防衛省の上位機関とみなされないのかということです。
 そのような誤解を与えないため、どのように表現すべきなのか、また、その意味でも憲法のどこに位置づけるのがよいのか、更に検討が必要と思います。
 第三に、憲法上の位置づけです。
 これは先週の玉木議員の発言でも指摘されていますが、九条の政府解釈、すなわち自衛の措置の限界は堅持した上で、国防規定とその担い手である自衛隊を明記する。さらにはシビリアンコントロールを明確化する。そうした目的であれば、日本国憲法第五章「内閣」の章の七十二条、七十三条の、内閣総理大臣、内閣の職務権限規定に追加規定を設けた方が、その目的に合致すると考えます。
 自衛隊は日本最大の実力組織です。これに対する民主的な統制を憲法上書き込んでいくのは、国民主権の理念からも憲法価値を高めるものとして意義があるもので、更に検討を進めてまいりたいと思います。
 ちなみに、海外の憲法例でも、私の知る限り、軍は大統領若しくは内閣の権能に関連して規定されています。
 なお、先週、玉木議員からは、平和安全法制の制定により九条の実体的な改正の必要性は消失しているとの話がありましたが、私も結果としてそのように考えています。
 昨年末に安全保障三文書が閣議決定され、現在も国会で論議されているところです。安全保障環境が一段と厳しさと複雑さを増す中で、平和安全法制の下、国民の命と平和を守るため、外交そして安全保障に係る政策をいかに実行していくのかが今まさに問われていると思います。以上です。

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