議員任期の延長 できるだけ速やかに結論を

衆院憲法審査会で北側一雄副代表

最も大事なことは、どのような緊急事態に
あっても国会の機能が維持されていることだ

 公明党の北側一雄です。
 欧州各国憲法及び国民投票制度についての調査報告書を読ませていただきました。欧州三か国で、政府、議会、学識経験者など、多くの関係者と精力的に意見交換がなされました。まずは、調査に参加された森会長を始め、議員団の皆さんに敬意を申し上げたいと思います。
 この報告書や、森団長を始め参加された議員の報告も踏まえ、国民投票と緊急事態条項について、改めて私の意見を述べたいと思います。
 フランスでの憲法改正手続と国民投票の位置づけについて報告がありました。
 フランス憲法の改正手続を規定した八十九条二項では、上下両院で可決された憲法改正案は、国民投票によって承認された後に確定するとあります。しかしながら、一九六三年以降の八十九条による二十二回の憲法改正のうち、二十一回は国民投票に付されることなく、八十九条三項、これは例外的な規定でございますけれども、この八十九条三項に基づき、両院合同会議により成立をしているとのことでございます。
 報告書によれば、憲法担当の大統領補佐官からは、国会議員のほとんどは、実際に国民投票にかけることは望んでいない、両院合同会議で五分の三の特別多数で成立を目指したいというのが大方の意向と発言されています。
 なぜフランスでは憲法改正国民投票の実施が避けられているのか。第一に、価値観が多様化、分断化する中で、国民投票がどのような結果になるか予測不可能であること、第二に、国民投票が政権への信任投票になる傾向があることなどが報告されています。
 第一の価値観の多様化、分断化という点は、日本でも同様です。有権者にとって、国政選挙で特定の候補者若しくは特定の政党に投票することと、憲法改正に係る内容を理解し国民投票をすることには大きな違いがあります。憲法改正案を国民に正確に理解してもらうことはそう簡単なことではありません。
 また、国民投票は、有権者にとって、憲法改正案に賛成、マルか、反対、バツかという二者択一です。賛成を選択する人の理由はおおむね共通していても、反対を選択する人の理由は多様です。例えば、改正に積極的でも、その改正案では不十分若しくは一部に反対と考える人と、そのような改正案にはそもそも絶対反対という人とは、意見は対立しつつも、国民投票では共に反対、バツとなるわけでございます。両議院で改正原案が議決、発議がなされたとしても、国民投票で過半数の賛成票を得ることは決して容易でないことを私どもは認識をしなければなりません。
 また、第二の、国民投票が政権への信任投票になるとの指摘は、私も参加した二〇一七年のイギリス、イタリアでの調査でも、多くの方から同じ指摘がありました。
 イタリアでは、憲法改正案の具体的な内容の是非というより、時のレンツィ政権の信任、不信任が問われる国民投票になってしまったということです。改正案は国民投票で否決され、これを推進したレンツィ首相は辞任をいたしました。
 また、イギリスでも、EU残留か離脱かを問う国民投票も同様で、時の政権への信任投票の傾向が強まり、EU残留を主張し、国民投票を主導したキャメロン首相は、辞任を余儀なくされました。
 国民投票というのは、本来、個別の重要政策に対する賛否を国民に問うものですが、往々にして時の政府に対する信任投票になりがちだということを知らなければなりません。
 日本国憲法の下では、フランスと違って、憲法改正を実現するには国民投票で有権者の過半数を得ることが絶対条件です。だからこそ、憲法改正原案の提出に至るまで、そして両議院の議決に至る過程で、できるだけ多くの会派のコンセンサスが得られるよう努めなければなりませんし、何よりも、国民の理解が深まるよう、改正の必要性と内容について丁寧な論議と分かりやすい説明を積み重ねていく必要があります。
 各国の緊急事態対応と憲法についても報告がありました。
 フランスでは、憲法上の緊急事態条項はほとんど発動されず、実際の緊急事態対応は法律上の緊急事態条項によって行われているとのことであり、アイルランド、フィンランドでも同様とのことです。フランスでの調査の中で、フランス憲法学の第一人者であるブドン教授の次のような発言に注目をいたしました。
 すなわち、法的、政治的に一番好ましいのは、例外的な状態になった場合に、立法府が必要な措置を取れるようにするための条文が憲法に存在していることだと思う。ただし、その際、必ずしも特別なスキーム自体を憲法の中に明記する必要はない。憲法が、立法府において例外的な事態に関する法律を作ることそれ自体を容認しているのであれば、それを人権制限の根拠と言うことができる。したがって、そのような法律で規定されるような措置の内容を憲法に明記する必要はない。
 非常に示唆に富む発言だと思います。緊急事態といっても、巨大地震、武力攻撃事態等の有事、深刻な感染症の拡大等、その形態によって必要となる措置も多様で、それぞれの危機管理法制の中で規定していくしかありません。大事なことは、ブドン教授の言うように、緊急時に立法府が必要な措置を取れるようにするための条文が憲法に存在していることだと考えます。日本国憲法では既に、十三条、二十二条一項、二十九条二項で公共の福祉による人権制約の根拠となる規定が置かれています。
 さらに、訪問された三か国で共通して強調されたのは、緊急事態対応における議会のチェックの重要性だと報告されています。
 例えば、さきのブドン教授は次のように指摘しています。緊急時に法律が行動の自由を制限するのであれば、十分に議会や司法のコントロールが利いているのかどうかというところに焦点が当てられるべきではないか。その上で、そのスキームが不十分である場合には、法改正によって柔軟に対処することができるとおっしゃっておられます。
 以上の報告から、最も大事なことは、どのような緊急事態にあっても国会の機能が現に維持されていることだと考えます。緊急時にこそ、行政を厳しく監視し、必要な予算と法律を速やかに成立させる国会の役割を果たしていかねばなりません。
 訪問された三か国で、我が国と同様、憲法上、国会議員の任期が明確に固定されているのはフィンランドのみということですが、フィンランド基本法では、次の選挙が実施されるまで現在の議員が在職する旨の規定があるとの報告です。
 ちなみに、ウクライナにおける最高議会議員選挙は、任期満了を迎えた先月、十月に実施される予定でしたが、戒厳下では議会選挙、大統領選挙が実施できない旨の法律があり、選挙が延期されています。ウクライナ憲法では、戒厳終了後の選挙により構成される議会の開会時まで議会期は延長される、また、議会期が延長されている間は議員任期も延長されるとの憲法上の明文規定があります。
 また、大統領選挙は、明年、二〇二四年三月に予定されていますが、ゼレンスキー大統領は、先日、その延期を示唆したとの報道があります。ウクライナ憲法では、大統領は、新たに選挙された大統領に対し、その職を引き継ぐまで権限を行使するとの規定があります。
 先日の森会長の報告にもあるとおり、議員任期の延長問題は、どのような緊急事態にあっても国会の機能が現に維持されていることが重要であるという観点から、できる限り速やかに結論を出していかねばならないことを申し上げて、私の意見表明といたします。

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