「集団的自衛権」閣議決定10年 日本の安全保障の柱に

読売クオータリー2024冬号
北側一雄副代表(党憲法調査会長)インタビュー

 第2次安倍内閣が2014年、長年政府解釈で認められなかった集団的自衛権の行使を限定容認する閣議決定を行ってから10年を迎えた。閣議決定は、政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が推進し、最終的に自民、公明両党が政治決着させた。翌15年には、安全保障関連法が成立する。与党協議で中心となった北側一雄・公明党副代表に、議論の内情を聞いた。(聞き手 舟槻格致・読売新聞調査研究本部主任研究員)

先見の明があった安保関連法

 北側さんは、与党協議の公明党側代表として、自民党の高村正彦氏と膝詰めの協議に臨みました。公明党や支持者の間では、集団的自衛権の行使容認には慎重な声も多かったと聞きます。あらためて、安全保障関連法の意義をお聞かせください。
北側 当時、安全保障環境が急速に厳しくなっていました。北朝鮮はミサイル発射、核実験をやっていましたし、中国による東シナ海、南シナ海での海洋進出も始まり、米中対立が強まりつつありました。
 その後、さらに厳しさが増していることは、国民も肌で実感していると思います。ロシアのウクライナ侵略、そして中東でイスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦いも起きました。国際社会全体が分断化され、対立が先鋭化しています。日本周辺を見ても、中国と台湾の問題も、ますます深刻化していると言わざるを得ません。それだけに、あの時平和安全法制(安全保障関連法)を整備しておいて良かったと本当に思います。
 なぜなら日本の安全は、自衛隊と日米同盟の下で確保するのが基本です。ところが当時、日米同盟には信頼性が十分とは言えないという大きな課題があった。在日米軍が攻撃されても日本は守ろうとしないのではないかという、そんな不信感が米国にあり、たとえば、機微にわたる安全保障情報が、必ずしも日米間で共有されない状況でした。日米同盟の信頼は、安保関連法の整備によって間違いなく向上しました。現にあれ以来、日米間の共同訓練は頻繁にしっかり行われています。究極の、あってはならない事態まで想定し、その時にどのような行動が出来るのかを明確にすることで、平時の備えも日米間でしっかりできるようになります。日米以外に日豪、日欧の共同訓練もなされていますよね。同志国との連携が強まっているのです。その前提に平和安全法制があったのであって、同盟の深化で抑止力が強化されたのは間違いないと思っています。逆に、もし今安保関連法がなければ、本当に大変なことになっていたろうと思います。

「砂川判決」以外の根拠を模索

 安保関連法で集団的自衛権の行使を認めるための理屈として、自公協議の中で当初、最高裁判所の1959年12月の砂川事件判決で「憲法9条により自衛権は何ら否定されたものではない」とされたことを使ってはどうか、という話が出ました。結局、「個別的自衛権について述べたものだ」などと公明党が反対し、採用は見送られます。
北側 砂川判決では日米安全保障条約の合憲性が問われましたが、自衛権のくだりは、あくまで判決文の「傍論」(obiter dictum)での表現です。これを直接の根拠にするのはいかがなものかと私は思っていました。
 9条でどこまで自衛の措置がとれるのかの解釈については、歴代政府と国会との間で、何度もやり取りが行われています。ですから、長年積み上げてきた政府解釈との論理的な整合性だけは維持していかないといけないと思いました。論理的整合性を超えるのであれば、もはや憲法改正をしていかなければならない。一番重要だと考えたのが、まさにその点でした。日本国憲法の平和主義、専守防衛の理念に反しないようにどう解釈できるのかということだったのです。
 安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)が安倍首相の下で2013年に再開していましたが、この議論の中身には、我々は相当な危機感というか、我々の考えとは違うなという意識がありました。法制懇は14年5月に報告書を出され、その直後に首相が記者会見します。今だから少しお話ししますが、首相記者会見も、また法制懇の報告書も、私は事前に案を聞いていました。結局、記者会見で首相がどう話すかがポイントで、私はいろいろな注文を、高村正彦さんを通じて申し上げ、首相会見の中身が決まっていきました
 安倍さんは結局、安保法制懇の提言について、それを全部受けるわけではないと話しました。報告書では、個別的、集団的を問わず自衛のための武力行使は禁じられていないという考え方と、限定的に集団的自衛権を行使することは許されるという二つの考え方が示されたものの、安倍さんは、前者の考えは採用できないし、芦田修正のような立場は取らないと、明確に言いました。芦田修正は、従来の憲法解釈とは整合性を持たないからです。その上で、限定的な集団的自衛権についてどこまで可能かと言うことを与党に検討してもらうという話でした。我々としては、それならば十分議論出来るのではないか、と思ったわけです。
 高村さんとは、首相会見前から議論を積み重ねていましたが、会見を受けてさらに本格的に自公で議論を重ね、武力行使の新三要件について合意して7月1日の閣議決定に至ります。

 法制懇の報告書前から与党協議は始まっていたものの、最初は結論がはっきり見えなかったわけですね。協議に臨んだ当初の思いを教えてください。
北側 繰り返しになりますが、日本の守りは日米防衛協力体制でやっているわけで、日本を守るために活動している米軍に対して万が一の攻撃があった場合に、日本の自衛隊がそれを排除できるにもかかわらず排除しないならば、日米同盟はもたないということが大前提としてあります。ただ最初は、従来の個別的自衛権の範囲内でも何とかならないのか、という考えは当然あったわけです。ところが、さまざまな事例を考えていくと、個別的自衛権か集団的自衛権か明確でないものも少なくともある。それを集団的自衛権と言おうが個別的自衛権と言おうが、日本を守るときにまさしく活動している米軍に対して攻撃があったら排除できるようにしておかなければなりません。そもそも日本国憲法には個別的自衛権や集団的自衛権と言った言葉は一切書いてありません。とはいえ、無制約になんでもできるということであってはいけない。では新しい要件はどのような表現がふさわしいのか、ずっと詰めて議論してきたということになります。
 高村さんとは、表現ぶりは別としても、要するに、もっぱら他国防衛のためでなく、まさしく日本を守るための自衛の措置ならば認められるけれど、どのような表現ぶりで書けば良いのかを考えていこうという話をしていました。そうした中で首相会見があって、限定的な集団的自衛権の行使が全く容認できないのかという問題提起が与党側に投げられた、ということになります。

たどり着いた「72年見解」

そこで、政府の「1972年見解」が浮上してきます。どのようにして出てきたのですか。
北側 憲法9条解釈に関する政府答弁を、昔のものから徹底して調べました。そうした中で、昭和47年(1972年)の政府見解が見つかったんです。書物にはポイントしか書いていなかったので、全文を読もうということになったんだけれど、どこにも見当たりません。でもあきらめずに調べていたところ、たしか参院の調査室でしたか、全文が残っていたんですね。政府側でも見つかりました。それを取り寄せて、この論理は使えるのではないかということになりました。
 結局、進む方向性は定まっていたけれども、我々としては具体的な言葉にしなければいけないわけで、それが決まらなかった。そうした中で昭和47年見解が出てきて、これを基に「武力行使の新三要件」を作ろうと言うことになったわけです。
 官僚、スタッフにも助けられました。当時を振り返ると、内閣法制局の当時の長官だった横畠(裕介)さんは本当に有能でした。あと、衆院法制局の橘(幸信)さん(現局長)。あの2人がいなかったら、あそこまでいけたかどうか分からなかったと思います。

◎1972年の政府見解とは
「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」を守るため、必要最小限の自衛措置を認めた当時の政府見解。
集団的自衛権の行使は必要最小限度を超え認められない、としていた。これに対して安倍内閣は、日本を取り巻く安全保障環境が激変していることを理由に、安保関連法は「この見解の基本的な論理は維持されている」ものとして、集団的自衛権行使の限定容認を導き出した。

新三要件では、「生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」というかなり厳格な表現が盛り込まれました。それでも世論調査では内閣支持率が下がったり、国会前で抗議活動が行われたりしました。
北側 世論もそうでしたし、うちの支持者たちの間でも大変厳しい声がありました。それを説明して理解していただかなければならない。国民も、安全保障環境は今までと違うぞという肌感覚は持っています。だから日米同盟は大事で、深化させなければならないけれども、なおかつ憲法の従来の考え方の範囲内で一致点を見つけたのだということを理解していただくと。相当丁寧にやらせていただきました。テレビにも出演しました。それで少しずつですが、世論の理解が広がってきたのだと思います。
 選挙で人や政党を選ぶのと、重要な政策決定について国民に理解を求めるのとは、相当に次元が違います。選挙で人を選ぶのであれば、有権者も、割と理屈の世界だけでなくて感性で、まあいいのではないか、と思ってくれることはある。だが政策で、非常に詳細な安全保障法制全体を理解するといったことは、容易ではありません。
 今後憲法改正を進めるなら、同じだと思います。憲法改正も、政策ですから。国のありようという政策です。根本的、基本的な政策について変えていくという話を国民に理解してもらうのは、相当な努力が必要と思います。安保関連法は、「戦争法」とまで言われました。戦争法でもなんでもなく、まさに抑止力を強化して戦争を起こさせないための法律なのですが。国会はデモ隊で囲まれました。政策の話は難しいから、よくよく慎重に丁寧にやっていかないといけない。憲法改正は特にそうだと思います。今までやったことがないし、海外の例を見ても、国民投票で失敗した国はありますよね。

台湾有事は絶対に回避

一方、安保関連法後も、ご指摘の通り日本を巡る安全保障環境の悪化はとどまるところを知りません。そうした中、たとえば、「台湾有事は日本有事だ」という言い方をする人もいます。安全保障関連法の集団的自衛権行使要件はかなり厳格ですが、今の法制で十分に対処は可能でしょうか。
北側 まず、台湾有事は絶対起こしてはなりません。安全保障の問題はもちろんですが、まさにシーレーンに当たり、世界経済、日本経済、中国経済にも多大な影響が避けられません。ですから繰り返しますが、絶対に起こしてはならない。そして、起こさせないようにするために外交は大事ですが、その外交力をしっかりと発揮していくためにも備えだけはしておかないといけないわけです。ですから、万一にも台湾有事が起こった場合のシミュレーションは、しっかりしておく必要があると思います。台湾は沖縄県・与那国島のすぐ近くですから、日本が巻き込まれないということもあり得ない。アメリカ下院議長の訪台に対して中国軍は複数の弾道ミサイルを発射して対抗し、日本の排他的経済水域(EEZ)内にも着弾しましたよね。現にそういうことがあった。離島の方々を含め、邦人をどう避難させるのかということも、現実の問題として備えだけはしておかなければならないでしょう。その中で、安全保障関連法で何が出来て何が出来ないかということも、当然議論が行われていると思います。

それ以上のことであれば、もはや憲法改正しかないと、安保関連法制定当時は話していました。
北側 武力行使の新三要件は堅持されなければならないし、変える必要もありません。その上で、事態というものは、その時になってみないと分からないということがあります。たとえば台湾有事があったからといってただちに日本有事になるのかと言えば、多分そうではないと思います。そこでは、重要影響事態とか、武力行使の前段階の話もあり得るかも知れません。様々な想定のシミュレーションを描いて準備されていると思います。沖縄駐留米軍がどのような動きをするかも関係するでしょう。ただいずれにしても大事なのは、そうしたことを絶対起こさせないことです。起きたら経済も大変になります。2008年のリーマン・ショックをはるかに上回ることになりかねません。

◎武力行使の新三要件(集団的自衛権行使を含む)
①日本や日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
②日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない
③必要最小限度の実力を行使する場合

目下重要となっているのは反撃能力の整備と防衛費の増額です。そして自民党は、憲法9条に絡めて、自衛隊明記のための憲法改正を訴えています。
北側 安全保障環境が本当に厳しさを増し、ある意味で深刻化する中で、米軍に依存するばかりでなく、まずは日本の防衛力を整備しなければならない、自分の国は自分で守らなければならないということで、反撃能力という考え方が出てきました。憲法改正については、自民党は従来の9条1項、2項の解釈、そして安全保障関連法で何度も議論した自衛の措置の限界については変えないということですよね。安倍首相もそう言っていたわけです。では、その上で自衛隊の明記がなぜ必要なのかというと、説明、説得力がまだ弱いような気がしますね。学者で自衛隊が憲法違反だと言っている人がいるというのも、ちょっと説得力が弱いですし、今、国民の間で自衛隊が憲法違反だと思っている人は、きわめて少ないと思います。
 とはいえ、自衛隊が日本最大の実力組織であることは間違いない。各国の憲法規定を見ると、実力組織の統制について、大統領や内閣の章に書くことはあります。ですから自衛隊の民主的統制について、日本国憲法に書いていくことは決しておかしい話でないし、検討に値すると私は思っています。


POINT
▪10年前に苦労して集団的自衛権行使の憲法解釈を変更したことが、今の日本の平和と安全につながっている。
▪解釈変更の閣議決定を受けて安全保障関連法ができてから、日米間の機微情報のやり取りはスムーズになっている。
▪解釈変更の根拠を巡っては、芦田修正、砂川判決、1972年政府見解といった主張が展開し、ぎりぎりの調整となった。
▪日本は今後も「反撃能力」を含む防衛力を整備し、台湾有事を絶対に起こさせないとともに、万全の備えを進めるべきだ。

※「読売クオータリー」は、読売新聞のシンクタンクである調査研究本部が発行する季刊誌です。

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