公明党が課した厳格な「歯止め」の意義と実効性。

月刊誌「潮」5月号インタビュー

公明党副代表 北側一雄衆議院議員

 清潔な政治の実現は公明党の党是
 今国会では、国民の関心が高い二つの問題について議論が進められています。
 一つは、自民党派閥による政治資金パーティーをめぐるいわゆる裏金問題です。この問題によって、国民の政治への信頼は大きく損なわれてしまいました。
 清潔な政治の実現は、公明党の結党以来の党是です。どんなに良い政策を掲げても、国民の信頼がなければ実行できません。公明党はこの事態を深刻に受け止め、国民の政治への信頼を回復するために、一月十八日に「政治改革ビジョン」を発表しました。その柱は①政治資金の収入と支出の透明性の強化、②国会議員本人に対する罰則の強化─の二本です。
 政治資金の「透明性の強化」は、国民の政治への信頼を確保するという意味で、民主主義の根幹にかかわるテーマです。わが党のビジョンでは、まずパーティー券を購入した人の氏名の公開基準を「二〇万円超」から「五万円超」に引き下げます。また、入金方法を記録が残る口座振込に限定し、国民への開示を容易にするため政治資金収支報告書のデジタル化を図ります。さらに、政治資金を監督する第三者機関を設置するといった提案をしています。また政治資金パーティーとは関係ありませんが、政党幹部が党から受け取っていた「政策活動費」についても使途公開の義務付けを行います。「罰則の強化」については、いわゆる「連座制」の導入を掲げています。今般の裏金問題に関して、多くの国民は会計責任者だけが責任を負わされていることに疑問を感じています。公明党の改革案では、会計責任者に対する監督を怠っている場合には、政治家本人も責任を取るべきと考えています。具体的には、政治家に罰金刑を科し、公民権を停止します。その結果、議員は直ちに失職し、またその後五年間は選挙に立候補することができなくなります。
 今後、衆参両院に政治改革特別委員会が設置され、再発防止に向けて本格的な議論が開始される見込みです。政治資金規正法の改正には、当然のことながら自民党が賛成しなければなりません。
 大事なことは、今国会で再発防止策を成立させることです。自民党をしっかりと説得し与野党の合意形成を図っていく─これは政権与党の一員であり、一貫して政治腐敗と戦い続けてきた公明党だからこそ果たせる大きな役割であると思います。必ず、再発防止のための政治改革を実現してまいります。

 安全保障政策の極めて重要な変更
 もう一つの問題は、次期戦闘機の第三国移転についての議論です。大前提として、日本はこれまで武器などの防衛装備を他国に移転することに関しては極めて慎重な態度を示してきました。すなわち、防衛装備の海外移転を認め得るのは、わが国の安全保障の確保に資するなど、具体的に運用指針に列挙される場合に限定し、かつ厳格な審査をとってきました。
 そのうえで、今般の議論を整理すると次のようなことになります。イタリア・イギリスとの次期戦闘機の国際共同開発が閣議決定されたのは二〇二二年の暮れです。その時点の日本政府は、次期戦闘機の第三国への直接移転は想定していませんでした。しかしその後、イタリア・イギリス両政府との協議を重ねるなかで、日本政府の認識が変わり、第三国への直接移転の仕組みをつくっておかなければならないと言い始めたのです。
 先述の原則に照らして、政府が進めようとしていることは、安全保障政策上の極めて重要な変更です。であるならば、国民への十分な説明責任を果たしていかなければなりません。具体的には、①そもそもなぜこの次期戦闘機が必要なのか、②なぜ国産ではなく国際共同開発をする必要があるのか、③なぜ第三国への直接移転が必要なのか─という三つの必要性について、まず説明しなければなりません。公明党としてはそうした考えのもとに、三月五日の参議院予算委員会で西田実仁参議院議員が岸田文雄総理に質疑を行いました。

 防衛装備移転の三つの必要性
 三つの必要性に関する岸田総理の答弁を要約すると以下の通りになります。
 現在の日本は「F―35」「F―15」「F―2」の三機種の戦闘機を有しており、そのうち「F―2」(九一機)は二〇三五年ごろから退役が始まるため、後継となる次期戦闘機を導入する必要がある。また、わが国周辺の安全保障環境は年々厳しさを増している。島国という地理的環境下で日本の安全を確保するためには、最先端の能力を有した次期戦闘機が不可欠で、すなわち海や空からの攻撃をできる限り洋上、そして遠方で阻止しなければならず、とくにステルス能力や高精度のセンサーなどの優れた空対空能力を有した次期戦闘機を開発する必要がある─。まずこれが、そもそもの次期戦闘機の必要性です。
 続いて国際共同開発の必要性についてです。国際社会では昨今、開発のコストやリスクを低減するために、パートナー国との共同開発が主流化している。日本としては独自開発やアメリカとの共同開発も検討したが、要求性能の実現可能性やスケジュール、コストなどの観点から、イタリア・イギリスとの共同開発を決めた─ということでした。
 では、第三国への直接移転の必要性はどこにあるのでしょうか。前提として、欧州のイタリア・イギリスと、四方を海で囲まれたアジアの日本とでは置かれている安全保障環境が違うため、航空機の要求性能の優先順位は必ずしも一致しません。日本が重視している空対空能力において性能を高めようとすると、コストが増大してしまうため、イタリア・イギリスにとっては輸出などによる価格低減の努力がより欠かせなくなる。ところが日本が第三国へ直接移転をしないとなれば、イタリア・イギリスからすれば「ならば日本の要求性能は実現できない」という話になってしまいかねない。ゆえに、直接移転を行い得る仕組みを持つことが日本の国益だと考えた─という説明でした。
 ちなみに、総理の答弁には次のような話もありました。もしも今回、第三国への移転の仕組みをつくらないということになれば、日本は国際共同開発のパートナーとしてふさわしくないと国際社会に判断されてしまい、わが国の防衛に支障を来すことになると考えた─ということです。

三つの限定と二重の閣議決定
 第三国への直接移転の仕組みをつくるならば、先述のとおり、それは安全保障政策の大きな変更になるため、厳格なプロセスが確保されなければなりません。換言すれば、国際共同開発される防衛装備品を無制約に第三国に輸出されることはあってはならない。その歯止めとして、公明党が提案し、政府で検討されたのは「三つの限定」と「二重の閣議決定」です。
 「三つの限定」とは、すなわち①第三国移転を認めるのはイタリア・イギリスとの国際共同開発(GCAP:グローバル戦闘航空プログラム)の機体に限る、②移転先国を、国連憲章の目的及び原則に適合する使用を義務づける「防衛装備品・技術移転協定」の締結国(一五カ国)に限定する、③現に戦闘が行われている国には移転しない─というものです。
 他方、「二重の閣議決定」とは、まず国際共同開発される次期戦闘機を日本から第三国に移転しうる仕組みを持つことを「閣議決定」します。
 さらに、将来第三国への移転の可否を判断するにあたっても個別の案件ごとにその都度「閣議決定」を要することを明確にしたということです。
 閣議決定をするということは、事前に与党審査を経なければなりません。与党審査が行われるというのは、第三国移転の決定の前に移転に関する情報をオープンにすることになり、そうなると国会でも議論になりますし、メディアを介して国民の皆様にも関心を持っていただくことになります。国民への説明責任を果たしていくというわが党の方針を実現するためにも、閣議決定というのは非常に重要なプロセスになるのです。
 過去にも例外的に防衛装備の移転が行われたケースがありますが、それは政府が決めた運用指針に則って最終的な決定が行われました。具体的には、国家安全保障会議(NSC)の四大臣会合などで決定してきたのです。そのプロセスと比較しても、「三つの限定」と「二重の閣議決定」は非常に厳格な歯止めであることが分かっていただけるはずです。

国民の理解を得ることが重要
 岸田総理は三月十三日の答弁で次のように述べました。
 「三つの限定と二重の閣議決定という厳格な決定プロセスを経ることで、平和国家としての基本理念を堅持することをより明確な形で示すことができる」
 その上で、何より強調しておきたいのは、こうした安全保障に関する重大な政策決定をするためには、国民の理解をしっかりと得ることが重要であるということです。オール・オア・ナッシングの極端な議論ではなく、国民の理解を得る中で合意点を見出していく。
 もしも公明党が慎重姿勢を示さなければ、次期戦闘機の第三国への直接移転は歯止めなしにスムーズに決まったかもしれません。そこにわが党が異論を唱えることで、国民の皆さんの関心も高くなったのではないでしょうか。そうした意味では、公明党の西田議員の質疑に対して、岸田総理自ら、「三つの必要性」と「三つの限定」「二重の閣議決定」という歯止めを語っていただけたことは、とてもよかったと思います。
 先述のとおり、次期戦闘機の導入が始まるのは二〇三五年で、いまから一〇年以上先の話です。そのころに国際情勢や安全保障環境がどのように変化しているかは分かりません。
 現時点では「三つの限定」と「二重の閣議決定」というできる限りの厳格なプロセスをつくっておき、あとは「個別の移転案件の段階」でその可否を慎重に判断することになります。しっかりと歯止めができたと自負しているものの、日本の安全保障政策の大きな変更であることに違いはありませんので、引き続き国民の皆様には丁寧な説明をしてまいります。

【略歴】
一九五三年大阪府生まれ。創価大学法学部卒業。八一年四月に弁護士登録。その後、税理士登録。九〇年、衆議院議員に初当選(当選一〇回)。国土交通大臣、党政務調査会長、党幹事長などを歴任。

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