国民投票への広報の充実強化を提案
広報協議会は国民投票実施のための必須機関
インターネットによる広報の実施、フェイクニュース対策、公開討論会の実施に関する規定案、今国会でとりまとめを
公明党の北側一雄です。 国民投票制度、また、国民投票広報協議会に係る課題について意見を述べます。
アイルランドでは、本年三月八日、憲法改正案が国民投票に付され、結果として否決をされました。
アイルランド憲法は一九三七年に制定されましたが、今回の憲法改正案の内容は、家族に関する二つの条項の改正案でした。
第一点は、現行の四十一条二節には、母親たちが家庭における義務を怠って働きに出ることがないよう、国は努力をしなければならないと定めています。男女共同参画の理念に明らかに反し、時代遅れだとして、その削除が提案され、代わって、家族相互の扶助をうたった条文案が提案されました。
第二点は、四十一条三節ですけれども、家族の基礎たる婚姻制度を特別に保護することを国に求めていて、婚姻を基礎とする家族のみが保護の対象と解されています。そうすると、内縁関係にある夫婦やその子供は、国が保護すべき家族でなくなってしまう。政府は、婚姻だけでなく、その他の持続的な関係も家族の基本とすべきだとして、改正案を提出しました。
極めて妥当とも思える憲法改正案には、政府・与党だけでなく、主要野党も賛成していましたが、国民投票の結果は、共に否決をされました。第一の女性の義務削除は七三・九三%が反対、第二の婚姻だけでなく持続的な関係も家族とする変更には六七・六九%が反対でした。
なぜ国民投票で圧倒的に否決されたのか。改正案の内容からは、意外な印象を受けます。アイルランドでは、近年、同性婚や人工妊娠中絶が国民投票で可決され、合法化されています。そのことからしますと、カトリックの影響が強く、保守的だからという単純な理由ではないと思われます。政府の準備不足や説明の稚拙さを指摘する声や、そもそも、改正案の内容以前に、今の政府に対する不満が強く、反対票が多く投じられたとする見方もあります。この結果を受けまして、憲法改正を主導したバラッカー首相は辞任をいたしました。
国民投票というのは、本来、個別の重要政策に対する賛否を国民に問うものですが、往々にして、時の政府に対する信任投票になりがちです。このことは、二〇一七年七月の当審査会の海外調査で、イギリスでのEU残留か離脱かを問う二〇一六年六月の国民投票、また、イタリアでの二〇一六年十二月の憲法改正国民投票でも、多くの識者から同様の指摘があったことを思い起こされます。国民投票で有権者の過半数の賛成を得るということは容易でないことを私どもは知らなければなりません。
そもそも、国民投票と選挙とでは、国民から見て全く次元が異なるということを認識しなければなりません。選挙は、有権者が立候補している候補者個人若しくは政党を選択します。候補者や政党の掲げる政策もさることながら、有権者が受け止める候補者の人柄、キャリア、印象なども重要な判断要素となってきます。一方、国民投票は、有権者が提案された政策の是非を選択します。
憲法改正は、憲法に成文化された国の基本政策の一部を変更しようとするもので、国民は、国民投票を通じて、提案された政策の是非を判断します。したがって、国民は変更しようとしている政策を理解しなければなりません。そもそも何のために憲法改正をしようとしているのか、憲法の改正をすると何がどのように変わるのか、具体的な要件と効果はどう定めているのか等々、国民が政策を正しく理解するのは、そう簡単なことではありません。
国民投票は、賛成、マルか、反対、バツの二者択一です。有権者が政策を十分に理解し、支持してもらうためには、疑問点や不明瞭な点があれば、これを解消しなければなりません。発議に至るまでの国会審議の中で国民の理解が深まるようにする必要がありますし、また、憲法改正案の発議後も、国民に分かりやすい広報活動を尽くすことが不可欠です。
憲法改正国民投票において、広報協議会の役割は極めて重要です。国民投票広報協議会は、憲法改正案の発議があったときに国会に設置されます。国民投票を実施するための必須の機関です。国会法及び憲法改正国民投票法の中にその組織や事務等について定められていますが、広報協議会が改正案発議後直ちに機能するためには、より詳細な規程が両院議長の下で決定されていなければなりません。広報協議会規程、事務局規程、広報実施規程などであります。
昨年の十一月二十一日、衆議院憲法審査会の幹事懇談会で、事務局から規程案の概要が示され、協議がなされました。その多くは事務的に作成が可能な事項ですから、会長から事務局に対し、各規程案の作成を改めて指示をしていただいて、幹事会等で取りまとめをしなければならないと考えます。
言うまでもありませんが、広報協議会の中心となる役割は、国民に対する憲法改正案の広報に関する事務です。国民投票法には四つの事務が定められています。
第一に、国民投票公報の作成、これは選挙の際の選挙公報に当たります。第二に、投票所に掲示する憲法改正案の要旨の作成。第三に、広報協議会及び政党等の放送、新聞広告に関する事務、これは選挙の際の政見放送等に当たります。第四に、その他憲法改正案の広報に関する事務です。
審査会また幹事会で特に議論すべきは、国民への広報の充実強化のため、その他憲法改正案の広報に関する事務として何をすべきか、何ができるかを明確にすることだと考えます。これまで審査会で議論となったことも踏まえまして、以下、三点申し上げます。
第一に、放送、新聞とともにインターネットを活用した広報の実施ができるようにすべきです。その際、信頼できる事業者を選定するための手続、基準を明らかにする必要があります。また、国民投票運動CMを取り扱う事業者に求められるガイドラインを作成する必要があります。例えば、CMの広告主は誰なのか、広告主名、そして、国民投票運動のCMである、広告である旨の表示をしてもらうことが最低限必要だと考えます。ガイドラインに沿わない広告は信用性に欠けると判断されます。
第二に、フェイクニュース対策です。広報協議会は、プラットフォーム事業者に対し、ネット検索結果において広報協議会の情報発信が優先的に表示されるよう要請するとともに、民間のファクトチェック機関と緊密に連携し、偽情報、誤情報を指摘できるようにすべきです。
第三に、憲法改正案に係る公開の説明会、討論会の実施です。
以上、国民投票広報協議会は、国民投票における賛否の判断材料として、憲法改正案の内容を国民に正確に理解していただくための情報提供をするもので、国民投票実施のための不可欠な機関です。
この国会中に是非、衆議院憲法審査会として各規程案を取りまとめ、参議院憲法審査会に提案できるようにすべきと申し上げて、私の意見といたします。