対談企画
― 平成16年、新年あけましておめでとうございます。ただいまより、衆議院議員・北側一雄先生と、当連盟の弓岡隆巳会長との新春対談を開始いたします。
昨年の衆議院議員総選挙において、公明党は選挙前勢力を上回る34議席を獲得されました。公明党は、今後も自民党との連立与党として政権を担っていかれるものと存じますが、どのような日本づくりを目指していかれるのでしょうか。
北側あけましておめでとうございます。
まず、昨年の衆議院総選挙におきましては、近畿税理士政治連盟、また特に後援会の先生方には、本当に一方ならぬご支援を賜り、当選させていただきましたこと、厚く御礼申し上げます。
衆議院総選挙の前に、自民党と公明党との間で、選挙政策の骨格、両党共通の選挙政策についても合意し、それを基本にしながら連立政権合意を作らせてもらい ました。これは、自民党政務調査会とともに起案し、それを幹事長レベル、次いで代表・党首レベルで最終的に合意しました。
まず、1つめは経済の問題です。政府与党として、平成18年度の名目成長率2%をぜひ実現したいと考えています。そのためには、やはりデフレを克服するこ とが最優先課題です。この2~3年で、何としてもデフレを克服して確実に経済成長する。その目標として、名目2%の成長ができるように、ぜひこれから総力 を挙げて取り組んでいきたいと思っています。
2つめは社会保障の問題です。これから本格的な高齢社会がいよいよ到来してくるわけですが、その社会保障の特に中核になっているのが年金です。昨年の選挙 でも年金に対する関心が非常に高かったということを痛感しているのですが、高齢社会が到来しても持続できる、安心の年金制度をぜひ確立していきたいと思っ ています。
3つめが、治安の問題です。最近、犯罪件数が非常に増えています。一方で、検挙率は低くなっているのです。これにはさまざまな背景、要因があると思うので すが、かつて日本は、世界一安全な国といわれておりました。最近起こっているさまざまな事件を見ると、凶悪な事件も増えていますし、信じられないような事 件もあります。もう一度、「世界一安全な国・日本」を取り戻さなければなりません。
以上の3つを柱に、政府挙げて取り組んでまいります。
また、私個人がさまざまな問題を通じて感じているのは、日本の社会全体のモラルが少し低下しているのではないかということです。確かに経済、景気が低迷していく中で、社会全体に余裕がなくなっているのかもしれませんが、これはそれほど単純な問題ではありません。
もう一度、企業の方々、地域社会を担われている方々、また、学校教育の中で、モラルの問題を見直し、不正を許さない社会にしていかなければならないと思います。不正が罷り通ってしまう社会が、これからの子供達にも影響してしまうことになるのです。
弓岡あけましておめでとうございます。
先生がおっしゃる日本づくりは経済から教育にいたるまで、とにかく改革がテーマだと思いますが、その中で特に社会保障、年金の問題が相当深刻ではないでしょうか。
現在、年金は、それほど支給しなくても、生活上困らないのではないかと思われる高額所得者に対しても、多く支給されています。高額所得者には限度額を決める等、早期に改善すべきではないかと思います。
一方、日本の場合は主要な外国と比べると国民負担率から見て、支給は決して高くない。国際的な視野に立って、均衡をとっていくことも必要ではないかと思います。
北側年金の問題は、社会保障の中核の問題です。
例えば、スタートラインはできるだけ一緒に並ぶように確保する。しかし、その後の結果はそれぞれの自己責任であるというアメリカ型社会を目指すのか。ま た、ヨーロッパのような、非常に社会福祉が充実した国を目指すのか。あるいは第三の日本的な道を目指すのかという、これからの日本の社会の形をどうしていくかという問題です。
アメリカは、国の出発時から大変な多民族国家ですから、まず、スタートラインがどんな人であれ同じであることが、最も大事になるのです。しかし、日本の場合は多民族国家ではなく、どちらかというと村社会ですね。
そういう意味では、日本の社会の目指すべきものはアメリカ型社会ではないだろう。といっても、ヨーロッパのような高福祉高負担の社会かというと、そうでもないかもしれない。
例えば、厚生年金の年金給付水準は、かつていいときは70%近いときもあったのですが、今は59%台です。仮に50%を割ってしまって、40%や30%台になってしまうと、果たしてそれが社会保障といえるのかという問題になってきます。
これからの高齢化社会を考えると、給付率全体が下がってくることはやむを得ないとしても、経済がどうであれ、出生率がどうであれ、やはり50%は国の責任としてきっちり確保していくことが、日本の社会保障のあり方としては大切なのではないかと思います。
50%を確保するためには、様々な施策があるわけですが、今後の日本の社会の形をどう考えていくかを踏まえて、社会保障の論議をしなければならないと考えます。
地域社会による人間教育と体験学習
弓岡国づくりの根幹の問題として、治安の問題も大切だと思いますが、ここ5~6年、治安は非常に悪くなってきていますね。これは外国人のうちの悪質な人が、日 本にたくさん入ってくることも影響していると思いますので、こういう人達が入国すること自体を防御する方法も論議しなければなりません。
また、先生のおっしゃるとおり、日本人のモラルそのものも低下していますね。モラルについては教育の問題を抜きには語れないと思うのですが、政党、国会議員の先生方におかれても、主義主張に関係なく、取り組んで頂きたいと、痛切に思います。
北側私は、戦争の傷跡が子供のころの記憶として残っている世代です。私が生まれたのは桃谷ですが、桃谷の駅を降りたら、白い服を着た傷痍軍人さんがおられた り、戦争で建物が壊れたまま、残っているような記憶があるのですが、私より若い世代、さらに若い今の子供たちは、直接体験をする機会が非常に限られてきています。テレビ、テレビゲーム、パソコン、漫画、すべて間接体験なのですね。
例えば、自らお米を作ったり、野菜を作ったりする。また、遊び道具にしても、自分たちで知恵を出して考えて作ることはなくて、すべて与えられて、自らが直接経験する機会が少ない。
家族形態も、昔はおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住んでいる。あるいは近所にいるという中で、自分のおじいさんとかおばあさんの死に際や、老いていく 姿を直接見て、時には一緒に介護のお手伝いをする。また、隣近所にいる自分のおばさんの子育てを目の当たりにして、自分でその赤ちゃんを抱く。そういう機 会がたくさんあったのですが、今、そんな機会はほとんど無いですね。そういう意味では、今の子供たちは豊かになっているのですが、反面、不幸な部分があり ます。
それでは、昔みたいな大家族形態に戻せるかというと、なかなか容易ではありません。したがって、地域社会がひとつになって、子供たちを育て、教育をしていくことが重要です。家庭教育はもちろん、学校教育も柱なのですが、もう一つ地域社会で子供たちを育て、教育していく仕組みを作っていかなければならないと思います。
弓岡そういう心のぬくもりというか、地域社会の中で、お互いに話し合う機会が、現在は非常に少ないですからね。
北側例えば地域社会の中には、色々な企業もあれば、色々な経験をされた方もいらっしゃる。そういう方々に協力いただき、体験学習をもっと積極的に取り入れたらいいのではないかと思います。製造業では、物が作られていく現場や、そこで工員さんたちが汗を流して働いている姿をきちんと見せる。朝礼も子供たちに並ば せて、会社の社長からびしっと厳しい言葉を言ってもらう。そういうことが大切な時代に入ってきているのではないかと思います。
我々は家庭教育だ、学校の先生だと言いがちです。確かに、それもとても大切なのですが、昔とは家族形態、社会情勢が変わり、豊かな社会になっていることを考えると、もう一度、地域社会全体で子供たちを育てて、教育していくようなシステムが、大切だと思います。
弓岡先日、クライアントに用事があって、午前8時ごろに行ったのです。朝が早いから閉まっているかと思いましたが、全員出勤していました。何をしているかと言えば、まず、最初にやるのは、全員で自分の使っているトイレのふき掃除を、便器から床までするということです。これは、掃除をしてきれいになるだけの問題 ではなくて、掃除をすることによって、みんながある種の誇りを持ち、同時に規律正しく物事をやっていくことにつながるということで、私は感心いたしました。
北側大阪でチェーン店のお好み焼き屋を経営している社長もトイレ掃除は大事だと言っておられ、心斎橋の商店街の中にある共同便所を商店街の人たちが一緒に掃除 しているのです。また、子供たちが体験学習に来たとき、その社長はトイレ掃除をやらせたらしいのです。そうしたら、教育委員会から、「子供たちにトイレ掃除なんかさせて。そんなために体験学習させたのではありません」と言われたらしいのです。これは、教育委員会の考え方も少しおかしいと思います。
会長がおっしゃるとおり、自分の会社のトイレをきれいに掃除する人はたばこのポイ捨て等は絶対にしません。たばこのポイ捨てをする人は、だれが拾うとか、 何にも考えていないのです。堺の仁徳天皇陵の周囲を、ロータリアンが社会奉仕でごみ掃除しているのですが、私も参加しています。そうしたごみや、たばこの吸い殻が大変多いのです。それを拾う作業をやっている人は、絶対たばこのポイ捨てなどはできません。
弓岡あるテレビ番組をみていると、落書きというものは一斉に消してこそ値打ちがあるということで、町内会で有名な落書きの場所を掃除しようと、参加者を募集し たのです。そうしたら、その町内に関係ない若い人達も、30~40人が一斉に落書き消しをしたのです。すると、それ以後、町から落書きが消えたということです。やはり皆、これではいけないという気持ちがあって、大勢で一斉に、そういうことをすることによって、気持ちも良くなるのだと思います。
北側先ほどのモラルの話ですが、自分だけだったらいいだろうとか、この程度だったらいいだろうという考えをなくしていくことが、これからの社会を考えたらすご く大事だと思うのです。大人がそういうことをきちんとやっていくことが、そのまま子供たちに反映していくことになるのです。
弓岡社会全体で子供達を育てていくということを考えた場合、メディアの責任も大きいと思います。
昨今の報道を見ていますと、テロが起こればテロの話ばかり、また、小中学生が重大な事件を起こしたら、その話ばかりで、良い話はほとんどない。これは逆に 悪いことに対しての感覚をマヒさせ、助長するような虞があると思います。私は、学校教育だけを一生懸命改善しても駄目で、ある程度、報道もあり方を考えることも必要ではないかと思います。
北側日本はやはり自由な社会ですから、報道の自由、表現の自由というのは最大限尊重しなければいけない。
ただ、こういう情報化の時代の中で、先ず報道する側の倫理というものはとても大切だと思いますし、受け取る我々の側も、報道、情報発信に対しても取捨選択できる能力を養うこともとても大切だと思うのです。
これはメディアリテラシーというのですが、学校教育の中でそういう能力を養うことも大切だと思います。
構造改革とセーフティネット
― 次に北側先生は公明党の政務調査会長でおられ、連立与党の政策責任者として大変活躍されてこられましたが、ご苦労な点がおありでしょうか。
北側周知のように、自民党はいい意味で大変幅の広い政党で、様々な人が集まっています。公明党はそれほど大きな政党ではありませんから、一緒に議論しても、 我々が言っていることが何でも通るわけではありません。ただ、我々も自民党との連立政権を担って4年経ちました。そうすると、国民受けが悪い政策であって も、場合によってはやらなければならない場面もあります。我々も責任ある立場にあるので、しっかりやっていかなくてはならない。
自民党の方々は、長年政権を担当してきて、ある意味では、その時点では国民に対して受けの悪い話でも、やらなければならないときはやるという腹がすわっておられます。そこは我々も一緒にやっていて見習わなければいけない部分です。
ただ、逆に、自民党の方々には、大衆性や庶民性という視点で見たときに、「ああそうか、こういうことが大切だな」ということを、逆に理解していただいている場面も相当あると思います。例えば、中小企業政策については、この4年間、相当声を上げて言ってきたつもりです。
弓岡公明党の皆さんは年齢的に若い方が多いですからね。公明党の政策に対し、自民党は非常に関心を持ち、積極的に取り入れているということも伺っています。中小企業政策については自民党よりも一歩進んでいるという評価もありますね。
北側小泉総理が唱えている構造改革は正しいと思っています。やはり、今までの右肩上がりを前提にしているような社会の仕組み、経済構造を変えていかないといけない。これを変えていかないと、今後の日本の発展は望めません。
従来のように、どんどん減税をやれば、どんどん公共事業をやれば、それで景気がよくなるのであれば、これほど楽なことはないのですが、今はそういう時代ではありません。
ただ、改革を進めていく一方で、セーフティネットをしっかり作っておかないと、改革もなかなか前に進まなくなってしまう。
そういう意味で、例えば雇用、中小企業という立場に立って、しっかりセーフティネットを張り巡らしていくことが大事であるということを小泉首相に対して率直に言っていくということが、我々公明党の大きな役割ではないのかと思います。
持続ある経済成長とリーディング産業の育成
― そのお話の続きで、景気はようやく穏やかな回復傾向にあるものの、更なる景気対策が必要かと存じますが、今後の政策についてお聞かせください。
北側今、大切なことは、持続ある経済成長をしていくことです。先ほども述べましたが、構造改革を進めていかなければなりません。昔のように公共事業をどんどん増やす、減税を大幅にやる、それですぐ経済効果が出るかというと、なかなか出ないし、また、長続きもしません。
例えば今、1年間で創業の件数は15万社ぐらいです。大阪は廃業のほうが断然多い。起業、開業、創業、よりも廃業率が高くなっているのです。
では、そういう新しい業を起こそう、また、今ある企業でも新しい業務、新しい仕事をやりたいと思っていらっしゃる方が少ないのかというと、決してそうでは ないと思います。ただ、そこにはいろいろな障害があって、なかなか挑戦できない。この新しい事業を起こそうとされる方々を、金融面、ノウハウ面も含めて しっかり支援していく体制を作っていくことが非常に大切ではないかと思っています。
あと、やはりこれからの日本の経済を引っ張っていくリーディング産業に重点投資し、重点育成しなければならないと思います。
日本は資源がない国ですが、これまでは技術力で世界をリードしてきたわけです。今、そういう技術が日本にないかといったら、世界最先端の技術が間違いなくあるのです。
例えばバイオ、ロボット、有機ELなどは世界の最先端を走っている部門です。
そこにしっかりと集中投資し、国も支援して、日本のリーディング産業というものを育てていくことが大切です。平成15年度予算で、719億円を投資して、80近いプロジェクトを育てているのですが、これをさらに増やしていこうと取り組んでいる最中です。
日本は、景気低迷が続いてきて、自信を失っている部分があると思いますが、実際、これから世界の最先端で日本が先導するような技術開発の現場を見せていた だくと、実に素晴らしいものがありますので、もっと自信を持っていい。ただ、今は韓国、台湾などを含め、投資の大競争時代になっているので、うかうかしているとすぐに追い抜かれてしまう。
ですから、この大競争に負けないように、民間に任せているだけでなく、政府もしっかりと投資をしてあげることが大切です。
税理士は中小企業の身近なアドバイザー
― 最後に、弓岡会長から、北側先生に是非お話されたいこと、また、北側先生から、税理士業界はどうあるべきか等、ご意見がございましたらお聞かせ願います。
弓岡私ども税理士は、今までクライアントに対して税金の問題だけしか話をしなかった。
これからは、税の問題だけでなく、北側先生がお話されたような経済や産業創出問題についても、勉強して話をする必要があるのではないかと思います。北側先 生も、税理士登録されておられますが、特に中小企業の育成に対して、税理士としてはこういう面は気をつけなければいけないということがあれば、教えて頂きたいと思います。
北側中小企業の現状を最もよくご存じなのは税理士の先生方だと思います。そういう意味では税理士の先生方には、もっと業務を拡大して頂いていいのではないかと思います。
先ほどの起業、開業、創業の話ですが、そこでは金融面での支援だけではなくて、さまざまな知恵、ノウハウが必要なわけです。そういうノウハウをしっかり提 供してあげるということを、一体だれが担っていくのかといったときに、もちろん商工会議所とかいろいろあるかもしれませんが、やはり税理士の先生方というのは、中小企業のオーナーの方からすればいちばん身近で、すぐ相談できる方だと思います。
ですから、税務はもちろん大切なことで、その税務は中核としながらも、企業の経営、運営、業務の拡大等についてどんどんアドバイスをしていける、非常に現実的で身近にいるのが税理士の先生方だと思います。
弓岡我々税理士も、中小企業と一緒でその日の業務に追われているのが現状ですから、勉強したいことがありましてもなかなかできません。北側先生には、そういうことを含め、今後ともご指導賜り、勉強させて頂く機会を設けていただければと思います。
― 北側先生には長時間にわたり、大変有意義なご高説を賜りまして、誠にありがとうございました。これからも国政における北側一雄先生のご活躍をご期待申し上げ、対談を終了させていただきます。
(司会)広報委員長 速水愼一郎
近畿税政連機関誌 第150号より転載
北がわ一雄プロフィール 昭和28年生まれ/創価大学法学部卒/弁護士・税理士/衆院当選5回/大蔵政務次官、衆院科学技術委員長等を歴任/現在、公明党政務調査会長/50歳 |
弓岡隆巳プロフィール 昭和5年生まれ/昭和54年 近畿税理士会理事/平成元年 日本税理士会連合会 常務理事/平成11年 藍綬褒章(税理士功労)受章/平成13年 近畿税理士会、近畿税理士政治連盟 会長・日本税理士政治連盟 副会長 現在に至る/74歳 |