対談企画
患者に立ちはだかるドラッグ・ラグ問題
北がわ多発性骨髄腫は血液のがんの一つで、比較的高齢の方に多い病気です。
40歳より若い患者は全体の約2%。多くの患者は腰や背中などに痛みを感じて、初めて病気に気付くことが多く、体の痛みのほかに、貧血や腎臓が悪くなる場合もあるそうですね。
上甲診断が下ると、患者は抗がん剤による治療を受けます。治療によって体の痛みなどの症状は一度は和らぎますが、多くは再発します。再発すると再び治療を受けますが、最初と同じ抗がん剤では効き目が少ないので、「サリドマイド」や「ベルケイド」といった別の新しい薬が必要となります。
残念ながら、多くのがんがそうであるように、多発性骨髄腫も現在は治癒させる方法がありません。病気と付き合う中で、治療と痛みの再発が繰り返されますので、患者は新しい治療薬を常に必要としています。
北がわサリドマイドを使うと、体内の骨髄腫細胞がかなり減り、骨の痛みや腎臓の悪化などの症状が緩和されるといわれています。上甲さんのお父さんが闘病されていた当時、日本でサリドマイドは未承認薬でした。当時から、海外では使われているが、日本では認められていないというドラッグ・ラグの問題があり、承認までに大変なご苦労があったと伺っています。
上甲サリドマイドは、50年ほど前に大変な薬害事故を起こしました。それが原因で承認に反対する声が多かったのです。そのため、父は英国から薬を取り寄せて使用していました。薬の値段は1錠2000円。1カ月分で12万円掛かっていました。高額な薬は、患者にとって大きな負担でした。患者数が少ないため、国内の製薬会社でサリドマイドを作ってくれる企業はありませんでしたが、英国のサリドマイドのおかげで、父は寿命を3年間延ばすことができました。
そのこともあって、サリドマイドの日本での承認と保険適用の必要性を強く感じました。
患者のため知恵絞る姿に希望。-上甲
高額な薬価は過剰なシステムが原因
北がわ2008年、サリドマイドには多発性骨髄腫など、がんの治療薬としての効果があると分かり、ようやく再承認されました。
しかし、承認後の薬価は1錠6570円。上甲さんのお父さんが英国から取り寄せた時の価格より3倍以上も高い。どうしてですか。
上甲再びサリドマイドの薬害を起こさないために設けられた「安全管理システム」に掛かるコストが原因です。このシステムは、安全に薬を管理する意味で必要なものです。ただ、高齢者に「授乳はしていませんか」と確認するなど、確認事項に不適切なものが多く、薬価のコストを下げるために、手順の適正化を求めていました。
また1カ月に掛かる薬代を含む治療費の本人負担は、1カ月で7万5000円にも上ります。
北がわそうすると、高額療養費制度の問題にぶつかりますね。この制度は、どんなに医療費が高くても本人負担となる1カ月の上限額(=限度額)は8万100円。それを年4回超えると、4万4000円まで下がります。
しかし、本人負担が7万5000円だと、この制度の恩恵にあずかれません。
上甲そうです。結果的に骨髄腫患者の負担は高くなった薬価と相まって増大し、悩んでいました。
北がわ私が、同じ堺に住んでいた上甲さんと最初にお会いしたのは、ちょうどそのころでしたね。
そこで、安全管理システムの適正化と、高額療養費制度に関する問題を伺い、09年、当時の舛添要一厚生労働大臣に申し入れて、その年の補正予算に対策を盛り込むことができました。
上甲それまで多くの他党議員へお願いに回っていました。
しかし、気の毒がってはくれても、前進はしませんでした。「またアカンやろう」。北がわさんにお会いした時、実はそんな気持ちだったんです。
でも北がわさんは「簡単じゃないと思う。だけれど知恵を絞る」と言ってくれました。そのように対応してくれたことは初めてで、本当にうれしかったです。
苦しんでいる人に尽くす政治姿勢に期待
北がわしかし、政権交代によって、補正予算の執行が遅れてしまいました。
上甲「ほとほと私はついていない。やはり駄目なのか」と断念しかけました。でも北がわさんが、「諦めるのは早い」と励ましてくれて。政権交代したにもかかわらず、補正予算の執行を一緒に後押しして
くれました。
あの時、誰よりも真剣に動いてくださった北がわさんの姿に、諦めかけていた政治に光を見いだした気がしました。
がん、難病対策の強化に全力。-北がわ
北がわ10年、安全管理システムの適正化に向けた1回目の調査事業が始まりました。それによって、患者はこの薬の危険性を正しく理解し、適切に管理されていることが分かり、厚労省も手順を見直しました。
さらに、この調査事業は継続され、2回目が11年に実施されたようですね。
上甲はい。これまで実施された2回の調査結果を基に、今春をめどにさらなる適正化を進めていく予定です。
また、調査協力金で経済的な負担を減らすこともでき、患者は喜んでいます。私にとって患者さんは亡き父同様に大切です。その命を北がわさんは真剣に考えてくださいました。
北がわ公明党は、高額療養費制度の見直しについても強い意識を持っています。10年12月に発表した「新しい福祉ビジョン」にも、限度額の引き下げを盛り込みました。
また海外では使われているが、日本では認められていない未承認薬や、ある病気には認められているが、同じような治療効果が期待される他の病気には認められていない適応外薬という、ドラッグ・ラグの問題についても、厚労省の「がん対策推進基本計画」を見直させ、対応していく決意です。
上甲多くのがんや難病の患者が苦しんでいます。北がわさんが一人のために知恵を絞って具体的に取り組んでくださっている姿は、私たちの希望です。
北がわありがとうございます。がんや難病で苦しんでおられる方々が、少しでも安心できる社会をつくるため、どこまでも現場の声に耳を傾け、行動してまいります。
上甲恭子プロフィール 「日本骨髄腫患者の会」(事務局-東京都小金井市)副代表。 |
北がわ一雄プロフィール 党副代表。1953年、大阪府生まれ。弁護士、税理士。90年、衆院議員に初当選。
衆院当選6回。国土交通相・観光立国担当相など歴任。 |